4th Chapter ツイン・ジーン
Cross Point







■KAY Side

(……ふむ、流石にプロジェクトRDHの為なら"イルミナス"も多少のリスクを踏まえてでも動く、か)

エミちゃんの端末腕環に密かに潜り込ませていたマーカーの発信情報、街中の監視カメラから送られてくる情報、そして"イルミナス"発信と思われる通信データの痕跡――。
私は一人ほくそ笑み、背後にいたルゥに指示を飛ばす。

「仕事よ、ルゥ」
「動くのですか?」
「エミちゃんの命を張った一世一代の大博打、手伝わない訳には行かないでしょ?
 騎士役には特殊任務班のキロ隊に。今回ばっかりは彼女一人に任すには荷が重いでしょうし」
「……コリンズ課長の言っている事は、抽象的で湾曲的に過ぎます。もっとはっきり言うべきなのでは?『プロジェクトRDHの情報が漏れ出る前に、全てを闇に葬れ』と」
「だからって、人命まで奪うのはガーディアンズのやり方じゃない」
「はい、人命や財産を守る事はガーディアンズの存在意義です。が、あの技術は記録に留めておくには危険に過ぎます。生体細胞の強化なんて、悪用されでもすれば――確実に人類は暴走し滅びの方向へ向かいます」
「だからこその隠蔽工作だし、所持関連情報の破棄だったのよ。実際に今まで知られなかった」
「しかし、現時点では分かっているだけで私たち以外に少なくとも4人が情報を持ち得ている可能性があります。エミーナ・ハーヅウェル班長、ウィル・ハーヅウェル支部長、アレスタ・ハーヅウェル元巡査部長、そしてティル・ベルクラント――」
「そこが、画一的に有能だけど融通利かないデジタルなキャストと、有能無能ゴッタ煮でアナログな生身との違いってとこね」
「――どういうことです?」

皮肉と取ったのか、ルゥが微かに眉をひそめた。
そうではないと否定の意味で頭を振り、私は苦笑いを浮かべる。

「ヒューマンやニューマン、それにビーストは貴方達キャストが考えている程記憶の面ではそれほど英知的な生き物ではないって事よ。子細細かにデータが残っているならともかく、元々の開発元である軍や"イルミナス"ですら情報の断片しか持ち得ていない以上、キャストでも一字一句までの再現は不可能でしょうね」
「なぜそこまで言い切れるのです?」
「開発主任が主要データを持って失踪したからよ。20年前のアスティア・ミュール博士の事件、貴女なら覚えてるでしょ?
 それに、エミちゃんやティル・ベルクラントと名乗ってるあの娘は……恐らくだけど、プロジェクトRDHとは別の思惑で動いてる」
「では、ウィル・ハーヅウェル支部長やアレスタ・ハーヅウェル元巡査部長は?彼らは本質に触れています。コピーしている可能性は?」
「確かに可能性はあるわね。
 けれど、彼らは自分の益の為に他人を裏切ったり、そもそも身近な人間の益にならないような事は絶対しない人間だと断言できる」
「……信頼は時として盲目になり得るかもしれません」
「そこまで疑ったら何も出来ないわ。こればっかりは長年のつきあいって奴よ」

慎重主義のルゥが、こういう時は有り難いわね。

「……わかりました、キロ班に至急連絡をとります。予算についてはいつもの形で?」
「えぇ、お願い」

さぁて、これから忙しくなるわね。
大手企業体や軍部、そしてガーディアンズにも多数潜んでいると思われるイルミナスシンパ、その急進派と穏健派の動き、裏金や資材の動き、その他諸々……これで少しは炙り出されると良いのだけど。
ルゥが退室した後傍らのコーヒーメーカでコーヒーを注いで一口飲み込み、私は自嘲気味のため息を吐く。

(そうなるように仕向けた張本人が言う資格は無いでしょうけど。
  ――必ず、必ず生きて帰ってきなさいよ、エミちゃん)










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