Final Chapter. ソシテ、ボクラガノゾムコト
Cross Point









――ティルがエミーナと出会う2日前。



■P.B. Side.

「かちょー、一息のとこすんません。ちょっといいっスか?」

相変わらず人手が足りず、猛烈な忙しさな3課の中でようやく一息をついて、シケモクに火を灯したところで、うちの若い連中の一人であるオタから声がかかった。

「あん?どうしたオタ?あと課長はヤメロ。隊長でいい」
「了解ッス。
 ……で、たいちょー宛てに電話なんスけど、暗号秘匿回線につなげと一点張りで……」
「誰からか名乗ったか?それと性別は?」
「……統合調査部と言ってますが、名前は明かしません。声からするに女です」
「ふむ、……とりあえず秘匿6番に回せ」
「逆探知、掛けときますか?」
「俺の予想が確かなら、一番そんなもんが必要ない奴からだよ」
「……恋人とk」
「んなわけあるかボケ!バカ言ってねぇでとっとと仕事もどりやがれ!」
「へいへい」

オタを怒鳴って追い出し、むっつりとビジフォンを睨む。

……統合調査部、なぁ。
そもそも同じガーディアンズとはいえ、括りの異なる組織には基本的に転送が主で、セキュリティの面から外部には代表番号位しか公開されていない。

(ウチの課の直通番号知ってる奴なんざ、所属してる隊員とその他数えるほどしかいないわけだが……)

呼び出しを奏でたところで受話器を取り――

「あー、この電話の主は現在不在です。御用の方は……」
『……久しぶりね、P.B.。相変わらず嘘が下手よねぇ?』
「やっぱアンタか、"レディ・レイヴン"」

ビジフォンのスクリーンに浮かび上がった姿と、その声に盛大なため息とともに、俺は苦虫を噛み潰したような気分になる。
電話の相手は、ケイ・コリンズ。 統合調査部一のキレ者と評される女課長で、よく厄介ごとを何かの拍子にウチに持ち込んでくれる人間でもあった。
統合軍からの腐れ縁ってのも、まぁお約束ってやつなのか。

「――で、コリンズ課長は今回何の御用事で?」

椅子を軋ませて大きく伸びをすると、背筋がポキコキと音を立てる。
あぁ、たまにゃあ外で発散せにゃなぁ……。

『あらあら。
  渋るパルム警察へ一部仕事を肩代わりさせて、息抜きにと思って穴場のバーも紹介したってのに……ずいぶんなご挨拶ね。でも、今回ばかりは放置できないんじゃなくて?』

そんな釣り針に、俺様が(ryってのはな、ネットの上だけにしとくに限るもんだ。
うまい話にゃ裏がある、ってな。

「それには感謝してるが……内容にもよるな。
 そっちも知ってるだろうが、こっちはコロニー落下の後始末で人手がまだまだ足りん。
あんまり大規模な行動は今手を回せネェぞ?」
『それが"イルミナス"に関係する事でも?』

思わず一瞬沈黙し、周囲をチラリと見回して受話器を握り直す。
幾ら暗号回線とはいえ、こんな話いきなりするもんじゃねぇだろ。誰が聞いてるか分からんし、こっちにも心の準備ってものがある。

「……どういうこった?」
『20年前のミュール一家失踪事件、そして今の連続殺人事件――それら全てがつながっているとしたら』
「……質の悪ィ冗談は好きじゃネェな」
『冗談でも推測でもない――真実よ』

コイツは捻くれてはいるが、嘘を言った事は一度たりとも無い。
更に、ガーディアンズとして、人としての行動に間違いを起こしたこともない。
となれば……。

『どう?話を聞いてくれる気になったかしら?』

(……先日狙撃されたエミーナや、ウィルにも関連してくるって事か?
 チッ……相変わらず外堀を埋めてくるのが手際よすぎるぜ、まったくよぉ……)

せっかく火をつけたシケモクのフィルターを噛み潰してしまった事に気が付き、腹いせ紛れに灰皿にこれでもかとこすり付けて、俺は降参の白旗を揚げる。
ま、結局こうなるってわけか……。


「畜生め。罠に自らわざわざ嵌まりに行くみたいで気が進まんが……仕方ネェ、聞いてやろうじゃねぇか」

頭をバリバリと掻きながら、俺は彼女の話に耳を傾けた――。









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