――ティルとエミーナが出会う1日前。
■kareha Side.
「おはようございまーす」
「おはやー」
「おはにゃー」
「あー、アタイ子おはよ」
朝の3課オフィス。
扉を開くと、窓から差し込む太陽の光と、喫煙室からかすかに漂ってくる煙草の匂い、そして若干埃っぽい匂いが私を包みます。
夜番の人がほっとした顔で、昼番の人が引き締まった顔で。互いの情報を交換する、そんな穏やかな時間。
そして、その間に女性陣から物が飛び交い、"ボス"やベルナドット隊長が集中砲火を浴びる。
これが、3課のいつもの光景なのですが。
「……あれ。えみなさん、今日も出社されてないんですか?」
向かいの机に居るべき人がいない――そう、違和感の元はこれでした。
えみなさんが何日か前から出社されていないんです。
「そういえば、飲み会の日から顔出してないね……寮で倒れてたりとかしてない?」
「あの日はエミにゃ、ぐてんぐてんに酔っぱらっちゃってたから、ウィル兄が迎えに来てたにゃ。
でもその後寮には帰ってきて無いのにゃ……ちょっと心配にゃ〜……」
「そっか、ネコは鯖味噌と寮のルームシェアしてたんだっけ」
「うにゃ……」
「んむぅ、端末腕環に連絡を入れてみたけど、呼び出してもやっぱり無反応だねぇ。どうしたのやら?」
この通り、音信不通状態。休みの連絡もないのです。
しかし、ベルナドット隊長はそれについて何も言いません。
「……隊長は何かご存じなんでしょうか……?」
「そいえばたいちょー、こないだ変な電話受けて血相変えてたっけなぁ……」
まだ眠そうなオタさんが溢した一言に、皆の注目が集まります。
「どういうことです?」
「あぁ、いや。
こないだ統合調査部って名乗る女からたいちょー宛てに電話があってさぁ。内容は聞き取れなかったんだけど……なんか割と切迫した内容だったみたいで」
「ふむぅ……」
そんなこんなしているうちに昼番の始業時間となってしまい。
このお話はその時はそこで途切れた、と思っていたのですが……。
「――あぁ、そうそう。3課4班の班長――エミーナの事だがな」
朝礼の隊長からの連絡で、初めてえみなさんの件に触れたのです。
「本人から数日間休むと連絡があった。
……まぁ、ここ最近まっとうな休暇取れてなかったし、ちょっと体調崩したんだとさ。
4班班長代理として、クレールを任命する。急な話ですまんが、頼まれてくれるか?」
「……はい、了解しました」
……と、そんな内容で。
朝礼が終わって持ち場につこうとしたところで、私は隣でむっつりと考え込んでいたマコ姐に声を掛けられました。
「――アタイ子、ちょっと外出るから準備なさい」
「はぇ?マコ姐?準備って、警らの、ですよね?」
「今日はアンタとコンビだからね。警らもちろんだけど……ちょっと鯖味噌の件、ついでに調べてみるわよ」
「あのその、ついでにって言いますけど……仕事中に勝手に仕事以外の行動しちゃっても大丈夫なんでしょうか……?」
「同僚を心配するのに何か問題でもあるってわけ?ほれ、40秒で支度しな!」
「は、はぃっ!」
その勢いのままにコロニー内警ら専用の小型ヴィークルに乗り込み、 クライズ・シティのガーディアンズ本部を出て小一時間。
私はマコ姐の指示で通常任務のクライズ・シティ内の警ら――本来複数回周回するのを一周で――早々に終わらせ、中央宇宙港へと進路を向けました。
「……それで、どうやって調べるんです?」
「……本人を一番知る人間に直接直談判してみるわ。
なーんか、あのエロアラシの話に違和感感じるのよね……いかにも裏がござい、って感じでさ。……いや、絶対何かあるわね」
「それは……私も感じましたけど。いいのかなぁ、仕事途中で放り出して勝手に行動しちゃって……」
「大丈夫よ、この件について隊長も、上の方も……数日は何も言わないわ……多分ね」
苦いものが混じったような、そんな苦笑を浮かべるマコ姐を横目でちらりと見ながら、ヴィークルは宇宙港へと到着したのでした。