Final Chapter. ソシテ、ボクラガノゾムコト
Cross Point










■kareha Side.

「いらさーぃ、ませ。本日ーはどんなご用件でーすか?」
「……えーと。
  クライズ・シティ所属、機動警備部3課のアネマコです。パルム支部長のウィル・ハーヅウェル氏にお会いしたいんですが」
「アポーは取らーれてまーすかー?」
「アポは取ってないです…けど」
「それじゃーとっとーとお帰ーりくださーい」

ガーディアンズ・パルム支部。
入口からすぐのところにある総合受付で呼び鈴を鳴らし続けて、かれこれ30分。
しかし、ようやく出てきたキャストの受付嬢は半ば壊れたような口調で冷たい対応の繰り返しで……。

(もう嫌だこの子、帰りたい……)

涙目で訴えかけてくるマコ姐に、私は……

(ふぁ、 ファイト!)

と念を込めるしかなく。
考えてみれば、ガーディアンズ・コロニーのメインシャフト落下事故からまだ3か月程度。復旧工事が始まったコロニー内はともかく、大きな被害の出たパルム支部の混乱が収まっているかと言えば……とても収まっていると言えない状況でして。
そんな中にアポもなしに責任者にお会いするのは、やっぱり難しいかなぁとも思ってしまうわけで……。
でもでも、お会いしないとえみなさんの居場所がわからないし……と、そんな感じでエンドレスに陥りかけていたその時。

「……シーナさん、そのお二人はそのまま通して構いませんよ。私の知り合いですから」
「あ、支部長。おかーり、なさーませ。わかーり、ました」
「……ウィルさん!」

そこにひょっこり現れたのは、長身で短めの茶髪に濃緑のコートに身を包み、丸い眼鏡の奥に明るい緑色の理知的な瞳が光る、パルム支部の支部長、ウィルさんでした。
この方が、えみなさんの義理のお兄様にあたります。

「これはこれは……。
 アネマコさん、カレハさん、今年のガーディアンズ出初式以来ですかね……ご無沙汰してます。今日はどのような件でこちらへ?」

にこやかに微笑むウィルさんに、マコ姐は不機嫌さを隠そうともせず文句を並び立てました。

「……久々過ぎて、アンタの顔忘れるとこだったわよウィル。
  あとこのポンコツ受付、どーにかしなさいよね!頭が抜けてるんだかネジが緩んでるんだか知らないけど、もうちょいこう……!
 って、そんな事は今どうでもいいのよ。ちょっとここだと話しづらいから、ウィルの部屋行きましょうそうしましょうハイ決定!」
「……えぇ、わかりました。コーヒーでもご馳走しましょう。カレハさんは紅茶の方がよかったでしたよね?」
「あ、はい!」

相変わらず押しの強さがマコ姐らしいというか。
その勢いのまま、私たちはウィルさんの執務室へと向かいました。
部屋に入るとすぐ、ウィルさんはお湯と飲み物の準備を始められてしまい、流石に支部長さんにお茶くみをお任せするのは気が引けたのですが、「まぁ座っててくださいよ」、と笑われてしまうと逆に失礼な気もして。
そのまま応接間で待っていると、マコ姐にはコーヒーを、私にはレモンティを持ってウィルさんが姿を現しました。

「さ、どうぞ熱いうちに。
  ……それでは、伺いましょうか」
「貴方も私たちも、そんなに暇じゃないのは分かってるから……単刀直入に言うわ。
 ちょっと聞かせてもらいたいんだけど、鯖味噌がここ数日、ガーディアンズ本社へ出社してないの、知ってる?」
「……!」

ソファーに座っていたマコ姐から、前置きも何もないいきなりの質問に、ウィルさんの右眉がわずかに跳ね上がります。
でも、表情自体は崩されません。冷静沈着な方です。

「いえ、知りませんでした……マコさんやカレハさんがこちらへ出向いたという事は、エミーナはそちらにも連絡を入れてない、と?」
「私も何度もコールしてるんですが、えみなさん、TELLに出てくれなくて……」
「ふむ……」
「あの日――飲み会があった日ね、あの後は鯖味噌、どうしたの?」
「えぇ。さすがに飲みすぎてたみたいで、時間も遅かったですからその日は実家で休ませて、翌日は休暇でしたからそのまま実家に居ました。翌日実家を出たんですが……寮に帰っているとばっかり……」

心配そうなウィルさんを、マコ姐はじとーっと見つめ、溜息をつき。

「ねぇウィル。うちのヤマアラシもだけど……アンタ何か隠してない?
  鯖味噌は、普段こんな行動起こす娘じゃないのは、アンタも分かってるでしょ?」
「…………そうですね。ですが、行動を起こすか否かは、あいつ自身が決めることですよ」
「でも……!」
「あいつも――エミーナも、もう立派な大人です。責任の取り方は、わかっているはず。
  行動を起こしたって事は、任務よりも大切なものを優先したって事でしょう」
「今は責任とかそういう事じゃないの!妹が失踪してるのよ?なんで兄のアンタが妹を探しに行かないのよ?!」

もっともな意見のマコ姐に対し、ウィルさんはあくまで穏やかに、微苦笑で答えます。

「……心配に決まってるじゃないですか。私自身が探しに行ければ、どんなにいいか……。
  しかし、陣頭指揮できる者が居なければ、支部は機能不全に陥ります。パルム支部が動けなければ……誰がパルムで起きている事態を収拾すればいいんですか?」
「そんなの誰かに肩代わりする位出来るでしょう?!」
「肩代わり出来る人間が居れば、いいんですがね……。
  生憎、今も副官は怪我で入院中。使える人員は救助や捜索で出払っていて、パルム全体の治安をカバー出来るだけの余力は、今パルム支部には残されていません。
 その上各地で乱闘や暴動も激増していて、惑星警察すら収拾に手が付けられない状況――
だからこそ、私の個人的理由の為だけでは、多くの人に迷惑は掛けられないんです……!」

そう努めて穏やかに言うウィルさんの拳は、硬く握られて密かに震えていて。

「でも……!」
「あの、マコ姐?それくらいで……」

パルム支部長に課せられた責任の重さ、そして今パルムが置かれている現状の一端を垣間見て、私は居た堪れない気持ちで暫く視線を泳がせた後――やんわりと、止める事しかできませんでした。

「……わーったわよ!アンタも忙しいだろうし、今日はアタイ子に免じてここまでにしといてあげる。
 ――でも……嫌な予感がする事は確か。アタシの勘、こういう時だけは良く当たるのよ」

マコ姐もえみなさんの事、心配してくれているんですね。

「……えぇ、先日の狙撃事件からこっち、事件続きですからね。必ず相手の尻尾を掴んで見せますよ。エミーナの事も…………。
 ともかく、連絡いただいてありがとうございました」
「……しっかりしなさいよ!さ、帰るわよアタイ子!」
「はい。お邪魔いたしました、ウィルさん」
「えぇ、お気をつけて」

部屋を出るマコ姐に続いて、後ろを振り返ると――その背に敬礼するウィルさんのその顔に、だいぶ疲れが浮かんでいるのを今更私は発見してしまったのでした。

「ったく……普段のウィルならこれ位の事、片手間で対応するでしょうに……」

パルム支部を出て、宇宙港からクライズシティへ帰還する道すがら。少々飛ばし気味に機体を操りながら、マコ姐はぼそりと呟きます。
ウィルさんが浮かべたあの表情を教えようかとも思いましたが、結局私は自分の胸に秘めておく事にしました。
だって、 言わなくてもマコ姐ならそれ位、ちゃーんと把握しているはずですから。

「……なんだかんだ言っても、マコ姐は優しいですよね〜」
「へ?な、なーに言ってるかな!?
 それはそうと……これで一つはっきりしたわね。鯖味噌が何か目的を持って居なくなった、ってことが」
「……ですね。ウィルさん、なんだか言葉選んでた感じでしたし」

私の言葉にうん、と一つ頷いたマコ姐の横顔は、厳しい色を纏っていました。

「多分ウィルも、うちのヤマアラシも……鯖味噌が何の為に動いてるか知ってるわ。そして、言うに言えない事情があるんでしょう。
  裏でよっぽど鯖味噌がマズイ状態になってるのか、それとも他の何かか――ともかく、帰ったら3課の"分かってる"連中に応援頼んでみましょう。何事にも準備しとくに越した事はないから、ね」
「はい」
「戻ってきたら、全力でとっちめてやるわ。 皆を心配させた罪は大きいわよ、鯖味噌……!」












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