Final Chapter. ソシテ、ボクラガノゾムコト
Cross Point










■Anemako Side.

3課のオフィスへ戻ると、"ボス"ことYoshio.が3課のいつもの面々――てんてーや練炭、オタや猫らに向かって何か必死に訴えかけているのが見えた。
オフィスに入ると早々に気付いたYoshio..が、こちらへ手を振って呼びかけて来る。

「お、丁度いいところに来やがったな2人とも。お前らもちと聞いてくれよ」
「そんな大声じゃなくたって聞こえるわよ。
  何よちお?あたしは忙しいの。内容がつまんなかったらすり潰すからね?」
「すり潰すって、どこを……?」

念のためという感じで聞いた練炭に、あたしはそりゃもちろん、ともったいぶった上で――

「決まってるでしょうが練炭、きんt……ふごもが〜!なにふんのひょあふぁふぃほ!」

全部言う前にアタイ子に口を押えられる。チッ 、この子もやるようになったわね……!

「マコ姐!ちょっと自重して下さい!これ全年齢向けですッ!」
「意味が分からにゃいけど、相変わらずにゃね〜2人とも……」

猫が苦笑を浮かべる向こう側で、なおも暴れるあたしとそれを押さえつけるアタイ子からそっと離れたYoshio.は、ちょっと青ざめて股間を右手で隠しつつコホンと咳払い。

「さ、流石にそれは勘弁願うぜマコ……あー、つまりだな。流石に今回のエミりゃんの行動、おかしいと思うんだよ俺。
 だってアイツってさ、普段すげぇ生真面目ってか、俺らがバカやってても朗らかに笑ってるってか、他人に迷惑掛ける事をすげぇ恐れてるってか……」

一旦話すのをやめ、納得する一同を見回して、Yoshio.は再度口を開く。
こいつもこういう時だけは真面目……。

「……なんつーか、どう言ったらいいかわかんねぇけど……そんな奴が、何も言わずに姿を消して、しかも連絡もつかねぇって事ぁ、絶対なんか困りごとしょい込んでるに違いねぇ。俺、アイツを助けに行こうと思う」
「……もし、それが骨折り損だったら?」
「それならそれで、一人で勝手な行動スンナって怒りゃすむ話。だが、ホントに助け求めたくても求められない状況だったら――最後に助けてやれるのは俺らだろ、やっぱ?」

……と思いきやいつものYoshio.だわね。カッコいいとか思って損したわマジに。
ま、仲間の危機を察知するその嗅覚は、流石あたしらチーム内で"ボス"って言われるだけの事はあるけど。

「……よちお、鯖味噌が助けを求めてるって根拠は?どこかで行き倒れてるだけって可能性は?それに、助けに行くったって見当はついてるのォ?」
「求めてるか求めてねぇかは野生の勘!見当は……まぁそれは、これから探しにいかにゃーならんかにゃ〜、とか思ってるが……」

ビーストの血がそうさせるのか、相っ変わらずの猪突猛進。
でも――あたしも嫌いじゃないわ、そういうの。

「まぁそこは仕方ないか、よちおだもん……」
「"ボス"だもんにゃ……」
「よちおじゃーしかたネェよなぁ」
「"ボス"ですものねぇ」
「"ボス"だからなぁ……」
「お、お前ら!お、俺だってヤルときゃヤルんだZE?!」
「……相変わらず威勢がいいなYoshio.?扇動の練習か、オィ?」

皆からの容赦ないツッコミに"ボス"の反応に若干泣きが入った所で、被さって聞こえてきた声は――エロアラシ、もといヤマアラシ隊長。
いちいち面倒だからエロアラシでいいわね。
でもってこのエロアラシ。自分も日頃手を抜くところは徹底的に抜いてサボってる癖に、部下に文句の一つでも言いに来たのかと思ったら……。

「た、隊長?!」

あわてて一斉に敬礼する皆に、エロアラシは崩れた答礼を返しながら一同を見回し、一つ頷いて苦笑を深くした。
ふぅん?文句を言いに来たわけじゃないのね。

「あー、別に気にスンナ。
  文句を言おうととしたわけじゃネェ、それにお前さん方の話は聞こえてたよ。仲間を大切に思うのは大変結構なこった」

そう言った後で小さく息を吐き、纏う空気が変わる。

「それとな……今からちと独り言をつぶやくが、聞く聞かないは自由。 ――ただし、機密は守ってもらうぞ?」
「なんです?」

重苦しい空気が流れ始めた皆に、エロアラシは一つ頷いて口を開いた。
――この分だとやっぱり、鯖味噌の身に何かあったわね。

「先日からエミーナが休んでる件な。
  朝方は皆の前だからああ言ったが――エミーナに対して、ハーヅウェル家から捜索願が正式に提出されたそうだ。数日前実家を出たっきりで、行方が分からなくなってるらしい」
「そんにゃ……?!」

事前にウィルから話を聞いていたあたしとアタイ子以外は、"ボス"が予測したとおりの状態でやはりショックだったのだろう、衝撃を受けている様子。
あたしも正直、はっきりと言葉で言われるとショックっちゃショックなんだけど……あーもう、よちおは今ドヤ顔するところじゃないっての!

「まぁそのまま聞け。
  ……流石に座して待つのは俺の流儀じゃねぇからな、色々調べてみたんだが……。
  どうやらエミーナの奴は過去のとある事件の何かの尻尾を掴んで、更に当該組織に捕われている人間の救出の為にひとりで捜査をおっ始めちまったらしい。ただマズイ事に、それに気づいた敵対組織がエミーナを追っかけてるっつー不確定情報もある。
 ……そもそもガーディアンズは公安組織だ。公安組織である以上、模範的な行動を取るべきで、隊員の独断行動は決して許される事じゃねぇ。ともすれば組織全体に危険を及ぼす行為を続ける隊員などもっての外だ」

猫やアタイ子の納得いかなそうな表情を読み取って、あたしは苦笑する。
……そりゃそうよねぇ。
所属隊員が好き勝手に動いてたら組織として成り立たないわけで。そんなのにいちいち構ってたら何にも出来やしないし、進むものも進まない。
でもこのエロアラシなら、多分――

「……だが、逆に考えればこれは迷宮入りした事件への捜査の突破口だ。更に俺個人の意見を付け加えるならば、市民を守る前に身近な人間すら救えないガーディアンズなど、存在する意義すらないと思っている。
 上からは状況がはっきりするまで動くなと連絡が来てはいるが――今の上層部は隊員を数としか見られない、本当の前線に出た事すらない腰抜け共だ。そんな奴らの指示がどうあろうと、俺は自分の隊構成員を一人残らず見捨てねぇ。絶対にだ。
 あのバカの首に縄付けてこの場に連れ戻すまでは、俺は好き勝手にやらせてもらう。……今この状況を上に報告したい奴がいるなら今の内だ、とっとと出て行ってくれや」

我らが隊長の予想通りの言葉に、周囲の人間の顔に浮かぶ感情――共通している肯定的な表情を見ながらあたしは苦笑を深くする。

"――多少の弊害は自ら切り開き、組織としてではなく、ヒトとして真理を追い求めよ"

公安組織としてはあるまじきその精神が末端まで行き渡ってる結果が、鯖味噌の行動でもあったんだろうしねぇ。
そりゃアンタもあたしら部下も上層部から煙たがられて昇進しないわけだわさ。

「……と、言ってはみたが、こんな事にお前等の首を賭けて付き合ってもらおうとも思ってねぇし、必要もねぇ。我こそはと思う奴だけ残ってくれ。それ以外は今の話は忘れとけ。お前らの身の為だ」
「……普段バカやってるくせに格好つけちゃって。
  そういうと思ってたわ。ホント、どーしようもないお人よしよねアンタ。
  そんな面白そうな事、あたしがほっとく訳ないでしょ?」

それに鯖味噌には悪いけれど、久々に大きなヤマだしね。
あたしの出来る範囲で、たっぷり暴れさせてもらおうっと。

「――私も行きます」
「カレハ、無理しなくてもいいんだぞ?」
「ありがとう、レンレン。
 でも……普段真面目なえみなさんが、全てを投げ打ってまで追いかけようとしてるんですよ?私が行かずに誰が行きますか!」
「ホント、アタイ子の女好きも困ったもんよねぇ」

本当にこの子は、その点すら表立ってなきゃ残念美人と言われずに済むのに。
とはいえ……表裏があるアタイ子はアタイ子じゃないか、うん。

「女好きとは失敬な!私はあくまで、美しいものと可愛い物を追いかける求道者なのです!」
「あー、ハイハイ……」

馬の耳に念仏って奴なのかしらね、これが。

「それでは、私は皆のスケジュール調整と後方支援を担う事としよう。オタ、手伝ってくれるか?」
「俺も前線で暴れたかったけど……わーったよ練炭、リストアップは任せとけ!」
「んむ、よろしく頼む。"ボス"とノラ、夕月はどうする?」
「俺ももちろん行くぜ!」
「ノラも行くにゃ!」
「……エミさん時折無茶するし、私も行っておくかねぇ」
「……と、いうわけだ隊長。私たちはこれよりエミさんの救援体制に入る。実動隊は"ボス"を中心としてカレハ、ノネラコ、夕月。規定業務の人員の方は――」

練炭の物言いに、猛然とキーを叩いていたオタが顔を挙げ、右手の親指を立てる。

「……うし、リストアップ完了。ちぃとクレールとサフランの勤務時間に無茶入るが何とか仕事に穴作らず回せるだけの人員は確保できた!」
「……だ、そうだ」

肩をすくめて白髪が混じり始めた金髪のカイゼル髭を撮みつつ苦笑し、エロアラシへ向き直る練炭。同じビーストでも年齢の差なのかしらねぇ、渋さと安定感がYoshio.とはえらい違いだわ。

――っつーても、日頃セクハラ発言してるせいでそこに気付いてる女性隊員がどこまでいるかだけど。

「了解した、無理させてすまん。
 Yoshio.とカレハ、夕月は今出せる輸送機があるかどうか整備班に打診、出せる時点で出撃してよし。スニファートとオタはそのまま後方支援を――そんな顔するなオタ。後方の支援がなけりゃ前線の連中は動けん、しっかり頼む」
「「「「「了解っ!」」」」」
「アネマコとノラネコはちょっと残ってくれ、伝達事項がある」













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