Final Chapter. ソシテ、ボクラガノゾムコト
Cross Point











■Kareha Side.

「エンジン、1番から4番、イグニッション」
「1番から4番、イグニッション。1番始動、2番3番始動、4番始動。異常無し。推力正常、オルタネータ電圧正常――」
「てんてー、そちらの準備は出来てますか!?」
『後部ハッチクローズ完了、気密OK。医療機器の電源ONも確認。こっちはいつでも良いよー』
「アタイコ、熱光学迷彩の方は大丈夫か?」
「えっとえっと、これでセットかな?」

パイロット席で手順を思い出しながら、コ・パイロット席に座った"ボス"と一緒に機体の起動シークエンスを立ち上げて行くに従い、機体がそれに応えるように音が次第に大きく、金属的な高音へと高らかに歌い上げるように響いて行きます。

『これより貴機のコードネームは"イフィゲネイア301"です。よろしいですか?』
「こ、こちら機長の枯葉。"イフィゲネイア301"了解」
『"イフィゲネイア301"、緊急展開カタパルト位置へ。ドック内整備員は速やかに退避されたし』
「ええっ、そっちのカタパルト使うんですか?!」

大型機でも一気に軌道離脱速度まで加速できる、超大型の電磁カタパルト。
緊急展開の為小回りの利く中型〜小型機体が多いガーディアンズでは、ほとんど使用しない上大電力を使用する為効率も悪く、存在を忘れていたのですが――。

『たった今、てメェらの親玉からの許可が出た。
 急ぐんだろ、思いっきりブッ飛ばしてやるから覚悟しろ。あぁ、あとお前らのフライトプランは予定航路にゃ含まれてねぇ。ぶつかりそうになったら自力で避けろよ?』

カタパルトへと続く斜高エレベータを下降しながら、整備班長さんの笑いを含んだ声が機内に響きます。なるほど、ベルナドット隊長も私達の援護に本気で動いてくれているようで。
であれば、私もその期待に応えるまで、です。

「お、お手柔らかに頼むぜおやっさん……ってちょっと待て。
 ……何気に今、おやっさん恐ろしい事言わなかったかッ?!」
「私のログには何もないですよ?」

やがて、重苦しい音と共に下降が停止。
目の前の通路に次々と明かりが灯り、遥か先の出口からは惑星パルムの眩い蒼い光が差し込んできました。

『ドックハッチ、完全解放完了。"イフィゲネイア301"、射出シークエンス開始。10、9、8、7……』
「 アフターバーナー点火。射出まで5、4、3、2、1……」
「あーもう、どうなったって知らねぇからな!」

射出直前にエンジンを最大出力、更にその上の"戦闘出力"へ。エンジン音が急激に高まり、機体内部にもビリビリと響く振動は、まるで声高く啼く猛禽のよう。

『「射出っ!」』

カタパルトとアフターバーナーの爆発的な推進力を背に感じながら、滑るように私達の機体は勢いよく宇宙空間へと弾き飛ばされ、普段通るワープチューブは通らず、そのままの勢いで惑星パルムの大気圏層へと一気に突っ込みます。
…… 緊急の状況じゃなかったら、始末書何枚のレベルですかねコレ。

「待てぇ!この速度じゃ機体の温度が耐熱限界超えて大気圏層で燃え尽きんぞ?!」
「大丈夫!大気でホッピングしつつエアロブレーキを掛ければ、速度を落とせます!」
「おぉ?そ、それやった事あるのか?!」
「やり方は教本に記載がありました!今から実践です!」
「やめろおお!俺はまだ死にたくねぇえええええ!!」
「今は一刻を争うんです、多少の無茶は見逃してくれなきゃっ!」

"ボス"の悲鳴を聞きながら、私は機体統合制御コンピュータの助けを借りつつ表層大気でのエアロブレーキングの微妙なさじ加減に没頭します。
流石にナビも補正もなしでは私も躊躇しますが、最新型であるこの機体ならばある程度自動で補正を行ってくれるので、実は余程大それたミスをしなければ何とかなってしまうのです。

「慎重に、時に大胆に――!」

女は、度胸!なのです!







 







|