Final Chapter. ソシテ、ボクラガノゾムコト
Cross Point











■Owner Side.

捨てられた子犬のように意気消沈したティルを見て、俺は自分を呪いたくなる。
もうちっと気の利いたセリフの一つや二つ言えただろう、と。
しかし、そんなことを考えてる暇は無ぇ。ティルと、嬢ちゃんの目の前に立つコイツは――ヤバい。
いや、コイツだけじゃネェ、か。

「……笑わせるな"火消し屋"。
  向く向かぬは関係ない。貴様も、こいつも、イルミナスを構成するその部品だろうが」

チッ、"娘"に対する親心ってのを全く分かってねぇな旦那?
最期ぐらい親子の団欒させやがれってんだ。

「あァ?お前らみたいな効率厨に、人間様の何が分かるッてんだ?
 どんなものであろうと有用と分かれば掻っ攫い、不要となるや即切り捨てる――そんな奴らが、ヒューマン至上主義だってんだから、とんだお笑い種だよな?」
「それのどこが悪い?組織もまたシステムの一つ。効率よく動いてこそ我々の版図も……」
「その為に、俺達ゃどんだけ無駄な血を流してきたっけかなァ?
 こんだけ言って矛盾に気づかないようじゃ……アンタも俺も、ここいらが年貢の納め時かもなぁ、えぇ?マガシの旦那よぉ?!」

出たとこ勝負で、背後の気配へ向かってマシンガンのトリガーを引く。
ま、これだけ殺気バリバリ出てりゃ、隠すも隠さないもねぇけどな!
そして、空間から滲み出すかのように表れる、赤い影……レンヴォルト・マガシ。
表向きはエンドラム機関の長、しかして実態は"イルミナス"の――ハウザーの駒。
そして今は――俺たちの敵。

「はん、殺気バリバリじゃ姿隠しててもモロバレだぜ、旦那?」
「ぬかせ!裏切り者めが!!」
「ハッハァッ!旦那の本気はそんなもんかよ!!そんなんで俺らを殺れるとでも?!」
「黙れぇぃ!!」

弾き、かわし、避け、食らいつく。
キャストと生身の人間では、継続戦闘能力は奴の方が上。

「ガハッ……!!」
「!!っ」

……やっぱ、な。
こうなるのは、先刻ご承知だよ。
だがな?
死を覚悟したヒトが、どれほど恐ろしいもんか。構成員を駒としか見ないお前らに、果たして理解できるか?
そして――それを理解した時、お前らは終わりを告げる。断言してやるよ。

(……!)

腹部に生じた痛みを怒りに変えて、小さなヒートナイフをマガシの右胸へと突き立てる。
狙い過たず、メインケーブルを切断された奴は、稼働を停止した。

「……く、ハハッ、この時を待ってたぜぇ?
 殺しを楽しんでる旦那だからこその隙だ…残念だったなぁ!!」

その瞬間、視界に入った490の鉄仮面に嫌な予感を覚え、直ぐにそれは確信に代わる。
糞が。最期の最期まで、ウゼェ上司だぜ、まったくよぉ!

「"店長"、手当を…!」

ティルの悲痛な声。
――しょうがねぇ奴だぜ、ホント。
そう思い、ショートカットからマシンガンを選択。
躊躇なく引き金を引く。
今にも駆け寄ろうとしてきたティルは、足を止め、信じられないような表情でこちらを見る。
わりぃな、ティル。
こうなる事がもちっと早くわかってりゃ、こんな別れ方しないで済んだんだろうけどなァ……。
ま、これが手向けってのは……俺らしいかもしれねぇが、な。

「おっと、ティル。それ以上近づくんじゃねぇぞ?」
「フ、フハハッ!
 馬鹿め、これで終わるとでも思ったかっ!!このままここ一帯を吹き飛ばしてくれるわ!!」

490の狂ったような哄笑。ケ、やっぱ、そーいう事か。
ベッタベタな罠しかけやがってよ、つまらねぇな、マジで。
罠ってのはなぁ、最初は真綿で締めるかのように周到に仕掛け、そして最後は確実に相手の息の根を止めるもんだぜ、旦那よぉ?


「……馬鹿なのはお前だ。仕掛けられてる事くらい、先刻承知だっての。
 ご丁寧に"本体"に爆薬詰め込んで、関係者を纏めてボーンって腹だったんだろうが……古典的に過ぎらぁ」
「な、……最初から……!?しかし、これなら――!」

哄笑を挙げ、余裕の表情で手元のスイッチを押す490。が、しかし次の瞬間その表情は歪む。
くくっ、ざまぁねぇな、えぇ?
ことごとく計画が潰される気分はどうよ?最悪だろう?押し黙ってても無駄だ、思いっきり顔に書いてあるぜ?

「……貴様ぁ!!」
「無線遠隔スイッチなんて基本中の基本だろうが。長年殺ししかしてなくて耄碌したか?……メイン電源絶った時点でお陀仏だよ馬ァ鹿!」

動かなくなった旦那を担ぎじりじりと後退しながら、俺は思う。

いやー、心の底から大笑いするなんて、何年振りかねぇ。

「……流石のティルでも、カバと旦那二人がかりってのは無理があったしなぁ……。
  まぁ、俺の最期の仕事としちゃ、悪かねぇか。
 ……ティル。長ぇ付き合いって程じゃなかったが……お前と過ごした時間ってのは、そう悪いもんじゃなかったぜ?
 あと、嬢ちゃん……エミーナって言ったか?……ティルを、よろしくな。この寂しがり屋をしっかり支えてやってくれ。
 けっ、そろそろこのポンコツも限界か。……あばよティル!その内、土産話もってこっちへ遊びに来いやぁ!!」
「"店長"!!」

ティルが叫んでこちらへと手を伸ばすのと。
俺がビルの端から離れるのと、ほぼ同時だった。

(今まで――すまなかったな、ティル。
 生きるために必要な術は、全て教えた。 俺が敷けるレールはここまでだ。
 ……後はお前自身が、歩み行く先を選択していけ!)

「"店長"おぉっ!!!!」

ったく、最後まで泣くような声で叫びやがって。
泣き虫め……。









 







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