"店長"が飛び降りた数瞬後に遥か下方から響いた、衝撃波と爆発音。
何故……何故"店長"が、こんな目に遭わなきゃいけない?!
あの人は、僕を育ててくれた人で、僕の目標で、僕の――ッ!
「ふん、末端の組織なりに役に立ってもらおうと思っていたが……。
たった一人消去するのにどれだけ時間を浪費する気だ?まぁ、所詮は使い捨てか。
なぁ、ティル・ベルクラント?貴様は……違うよなぁ?」
「僕……は……」
490の言葉に、無理矢理押し退けられるように僕は、アイツへと刃を向ける。
重さすら感じなかった壊れたテュポーラが、今になって酷く、重い。
身体が委縮し、呼気は乱れ。剣先は僕の心の乱れを感じ取って、細かく震えていた。
「ルシーダ……」
「くっ……」
アイツが、こちらへと歩んでくる。
後、僅か半歩踏み込めば剣先が届く距離に、アイツが居た。
僕と正反対の色を持つ、僕と全く同じ顔をした、アイツ。
「……もう、やめよう?」
否定したいのに、 拒否したいのに。
今の僕には、弱々しく首を横に振るのがせいぜいで。
でも。それでも。
僕の憔悴しきった表情をその瞳に写しながらも、アイツは……手を差し伸べてくる。
悲しみと、嬉しさとがない交ぜになった、そんな表情で。
分からない。
何故、僕みたいな存在に、ここまでしてくれる?
分からないよ……!
「君や、"店長"は……何故、何故僕なんかにそこまで……?
僕は君をここにおびき出し、殺そうとしたんだぞ!?
"店長"だって、僕には本来何の関係もない他人なんだ……。それなのに……?!」
「ボクはね……キミを、ルシーダを取り戻したかった。
"あの時"で止まっていた全部を取り戻して、もう一度、キミと、一緒に生きていきたい。
ルシーダと、ただ一緒に居たい。それだけ。
……"店長"さんだってルシーダと一緒に居たくて、それが叶わないならせめて生きて欲しくて、キミの事、庇ったんだと思う」
「それだけの、ために……?」
震えながら呟く僕に、アイツは、こくりと頷く。
「一緒に、帰ろう。ルシーダ」
彼女の差しのべられた掌を僕は直視する事ができずに、俯く。
僕を救う為だけに、"店長"は命を落として。
僕を救う為だけに、目の前の彼女は来たとでも言うのか。
その為だけに、自らの命を危険に晒して?
僕……僕は……。
「ふん。デリータ相手に戯れ言かぁ、エミーナ・ハーヅウェル? 詰まらん。実に詰まらんなぁ。
……お遊びはここまで、そろそろ終わらせるか ――さぁ、ティル・ベルクラント。この用済みをとっとと"消去"しろ」
「うぁっ?!」
490の底冷えする声と、アイツの、悲鳴。
反射的に視線を挙げると、そこにあったのは――ツーヘッドラグナスの刃。
「ふん、貴様も"故障"したか……?
ならば……まとめて処理するまでだ。なぁ、"出来損ない"?分かっていたことだよなぁ?」
「駄目だ、ルシーダ、逃げてぇっ!!」
咄嗟のことで、防御動作にすら移行できない。
ああ。
僕は。
ここで、終わる、のか。
「この子は……もう、誰にも傷つけさせない……!!」
僕の頭へと刃が届く数瞬前。
アイツの――エミーナの身体が、僕を庇うように、刃の前へと投げ出された。