epilogue...
Cross Point





 


『――えーと。
 それでは、これより模擬戦闘訓練を行います。
 相対者は機動警備部3課4班班長、エミーナ・ハーヅウェルと、同班所属隊員、ティル・ベルクラント。
 時間無制限の一本勝負、武装は訓練用の弱装模擬武装を使用。実戦に近い形式で行いますがあくまで訓練の為、危険行為は反則と見なし、その時点で即刻中断とします……』

控室に、カレハ巡査の声が響く。待っていた日が、遂にやって来たのだ。
クライズ・シティの一角、ガーディアンズ訓練施設の中にあるVR訓練区域で行われる――エミーナとの一対一のガチバトル。かつて命のやり取りをした相手と、訓練とはいえ再び一戦を交えさせるだなんて、よくも上が許可したものだ。
でも、これは僕と彼女にとってとても大事なこと。不器用で臆病な僕らが解り合うための、大切なステップだ。

(きっと、エミーナも同じことを考えてくれてるはず――だからこその、この訓練だよね)

壁際で足を壁にかけて身体を温めるための軽い運動をしながら思っていると、カレハ巡査の個人通信向けウインドウが目の前に開いた。

『ティルさん、準備できましたかー?』
「あ、カレハ巡査……うん、僕はいつでも」
『んもぅ、カレハでいいって言ってるじゃないですか。
 同じ警備部3課の仲間なんですから、貴女も赤の他人じゃないんですョ?』
「……流石にまだ、呼び捨ては気が引けるよ。それより、どうしたの?」

一瞬カレハ巡査は考えるそぶりをして、やがてぽつりと呟く。

『今更ですけど……大丈夫ですか?』
「……大丈夫、とは?」
『んー、なんといいますか……。
 その、ほんとはえみなさんとティルさんの為だけに、こっそりやるつもりだったんですよ?
 それが正直、それがここまで大事になるとは私も想定外でして……』
「……僕は気にしてない。それに、こっそりやろうにもそれじゃ、上が許さないだろう?」
『まぁそうなんですけどねー……』

たはは、と苦笑するカレハ巡査に僕は小さく微笑む。
色々気遣ってくれることが、純粋に嬉しかったのだ。今まで感じた事が無いその感情に、なんだかくすぐったくなる。

「ふふ、ありがとう――さて、準備できたよ。エミーナの方は?」
『あぁ、了解です。ちょっと今から確認してみますー』

ウインドウが閉じ、僕はふっと息を吐く。
身体の内に沸き起こる熱。それが、抑えきれない。
今にも漏れ出しそうな、その奔流を何とか押しとどめて。
僕はその時を待つ。

『ティルさん、お待たせしました。エミナさんも準備できたそうです』
「わかった」

言って僕は、ゆっくりとVR訓練区画へと歩を進めた。
エミーナとの、戦いという名の"対話"をする為に。









 







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