『始めっ!』
開始合図とともに、僕とエミーナの刃がぶつかり合い、羽虫のような音を響かせる。
二人の獲物は、両方ともダブルセイバー。
得意とする戦種が同じというのは、やりにくい所もあるが――純粋に技量や力を測るにはちょうどいい。
(リーチは同じ……でも技量や力では、まだこっちが上、か)
エミーナの血を取り込んで、僕の肉体の身体強化の影響はほぼ無くなったとはいえ、 退院した後筋肉量を戻すためのトレーニングのお陰か否か、僕はまだエミーナに比べると上回っているようだった。
「くぅっ!」
エミーナが苦しそうな顔で、あの時と同じくダブルセイバー特有の連撃で相手の力を逃がし、流れのままにそれを次の攻撃へと繋げてくる。
でも――同じ戦法は、僕には通用しないよエミーナ?
「……ふふっ、そう来ると思ってたよ!」
「!?ッ」
エミーナが流そうとする力を、がっちりと受け止め、止める。
そのままその反動でエミーナの喉元を狙うけれど、流石に彼女の判断も早い。
喉反らしからのバック転して避けられた。
「……やるね、エミーナ。避けられるなんて思わなかったよ」
「結構、ギリッギリだけどね!」
「まだ、続けるよね?次は、取るよ」
「……望む、所だ」
短いインターバルから、エミーナは荒い呼吸ながらも僕の攻撃を掻い潜り、食らいつき、一撃を食らわそうとして来る。
その姿に、その攻撃に、僕は――妙な高揚感を感じていた。
(――あぁ。僕は今、楽しいんだ)
打てば響くかのような、一進一退の攻防が続く。それが――今どうしようもなく、愉しい。
頬が緩むのが、抑えきれない。
首筋の僅かに外側を、鼻先を、髪の先端を、脇腹のすぐ脇を。訓練用とはいえ、当たったらただでは済まないような互いの攻撃が掠り、通り過ぎる。
当然、実戦形式の訓練である以上、お互い本気で当てに行っているが――これが血の繋がった双子だからなのか、僕には、そして恐らくエミーナにも、互いの攻撃の軌跡が"視え"ていた。視えるなら当然、避けることも出来る。僕にも彼女にも、それくらいの実力はある。
本気以上の本気で繰り広げられる、全力全開の演武。それが、今の僕らの状況だった。
互いに決め手に欠ける攻防。だが、どちらかの反応が半瞬でも遅れれば、決着がつくだろう。
(集中しろ。研ぎ澄ませ。ミクロン単位の穴を突くイメージで――!)
勝つか負けるかなんて、この際どうでもいい。
ただ、この時間が続いてくれたらと切に願いながら。
次第に、周りの音も、周りの視線も、僕の意識の中から消えていく。
いつの間にか、僕は目の前のエミーナと一対一で"対話"していた。