Cross Point
Prologue...[アルキダスキモチ]



 

その日。
ボク、エミーナ・ハーヅウェルは朝から憂鬱だった。
頭の中の何処かがぼうっとしていて、しゃっきりしないというか、なんというか。お陰で仕事のミスも多くて同僚に呆れられるより先に心配される始末。遂には課長に無理矢理早退を言い渡されてしまった。

(……只でさえ人手足りないのに、更に穴作ってどうするんだろう、あのヤマアラシ……)

まぁ、その課長はボクに言い渡した時のセクハラ発言が原因で、その場にいた女性隊員から総スカンを食らった挙げ句、アイテム投擲の格好の的となったのだが。仕事は真面目なのに、何で要所要所で自ら墓穴を掘るのかがボクには理解できない。

「ぁふ……」

コロニー各所を結ぶリニアは、夕方のラッシュにはまだ早い時間帯。がらんとした車内のシートに腰掛け、ボクは思わず出た欠伸を噛み殺した。それもこれも、ここ数日起きた時の夢見が最悪だからだ。内容はこれっぽっちも思い出せないのに、何故か酷く悲しい夢だった事だけは覚えている。

(うー……ん。疲れ気味、かなぁ?)

ガーディアンズ・コロニーの一部が、パルムのローゼノム・シティ近海に文字通り"墜ちて"からはや数ヶ月。
未だにガーディアンズとパルム政府は、詳細な被害の規模を把握出来ていない。
更には中枢機能を失ったガーディアンズが方々で適当な行動を起こしている事が余計に復興を遅らせているとの噂も飛び交っていて、各地で暴動が発生しているとも聞く。
実際は、各支部との連絡手段は確かにメイン回線が死んだとは言え、サブ回線は回復したから全く機能していないわけではないし、機動警備部はもちろんの事、一部の駐在警備部隊員を駆り出してもまだ足りない程の人手不足の中、事態収拾の為に昼夜問わずフル回転しているのだけど……こんな状態だから、当然普段なら起きそうもない諍いや犯罪も多発する訳で。
そして、毎日のように見つかる犠牲者……凄惨な現場も何度か居合わせたけど、何時まで経っても慣れる事は出来なくて。

(夢、って日常の記憶を整理する行為だって、誰かが言ってたっけ……)

リニアに揺られながらそんな事をぼんやりと思い――あぁ、と思う。確かに少々、精神が参っているのかもしれなかった。