「って、これ護送車じゃないですか……。
送ってもらう以上文句は言わないですけど、もうちょい良い車無かったんです?」
大きなスライドドアを閉じてナビ席に座り、ベルトを締めながらつい愚痴ってしまう。裏口から乗り込んでクライズ・シティまで護送とは、まるで自分が犯罪者にされたみたいだ。
「んー、刑務所行った帰りにあのエロアラシから連絡受けてねぇ。それに、この車ならそうそう撃たれても平気でしょ?」
そんなボクに苦笑いしつつ、夕月先輩はスムーズに車を発進させた。
「そりゃ、そーなんですけど……」
それにしても……前線に出てるはずの(それも有能な!)機動警備部隊員が囚人の護送までこなさねばならないとは、かなりガーディアンズの人員不足は深刻らしい。
「あの、ちょっと聞いても良いですか?」
「うん、どしたの?」
「……例の狙撃距離の件なんですけど。どう思います?」
彼女は以前狙撃班にも身を置いていたというから、何か意見を貰えるかも、と思ったのだ。
「普通なら、7mm弾で1km以上の狙撃を狙うのは、やっぱりナンセンスだねぇ」
「ですよ、ねぇ……」
「まぁ方法がないわけじゃないよ。キャスト専用になるけど、GPS衛星と、標的行動予測システムの連携で相手に"無理矢理当てる"って方法もあるけど……」
「へぇ、そんなものも?」
そこら辺の機器の購入履歴を当たれば、とも思ったが、夕月先輩は渋い顔。
「んー。でもこれは正直、仕掛けが大がかりになりすぎて一般的じゃない上に、その装備は今の所統合軍の一部に配備されてるだけ。それに、今回の容疑者、恐ろしく撤収も早かったみたいで、結局足取り掴めなかったみたいだしねぇ」
「早かった、って事は……相手はそういう装備に頼ってない?」
「多分ね〜。
10分程度で撤収出来る規模じゃないっていうし。まぁ、かと言ってほかの種族で真似できるかって言うと……ちょっと難しい所なんだけど」
「……」
全ての根元となりしヒューマン、理知的なりしキャスト、精神を究めしニューマン、頑強なりしビースト――。
ヒューマン以外はヒューマンから作り出された種族なのは周知の通り。数百年前には遺伝子研究と称して人道から外れた人権無視の実験も多かったと聞く。まさか、今のご時世にそういう事をする"ヒト"が現れるとは思わないが……。
「人種改良、なんて線は……あり得ないですね、うん」
「んー、ここ数十年そういった禁忌を犯した事件は聞いた事ないしねぇ」
現在、ヒトに対する遺伝子調整は各惑星政府では厳禁とされていて、罪を犯せば極刑は免れない。
それに実際にやるにしても、膨大な研究と莫大な資金が必要になる事位はそっち方面に疎いボクでも分かる。……あ〜、流石に思考が飛躍しすぎだ。
「すいません。ヨタ話として忘れて下さい……」
「フフ。面白い意見だけど、その手の話は都市伝説とかでよくあるからね〜」
「こないだトンデモ番組見たからかなぁ?パルム地下に旧文明の基地が未だに埋まってるとかって奴……」
「あー、見た見た。あれ途中で説明が破綻してて別の意味で面白かったよ」
そんな他愛もない話をしながら、空港へと向かっていた時、無線機に通信が入った。
『パルムHQより、10-248番地付近警邏中の支部所属G's隊員へ。10-248番地スカイホライズンホテル最上階にて421発生、至急急行されたし』
421――殺人事件のコール番号。
最近急に増えているように感じるのは、ボクの錯覚ではないはずだ。事態を引き起こした側としてキレイゴトは言えないけど……こういう時、ヒトという存在は醜いな、と思ってしまう。……そんな事を考えてしまうのは、ボクがまだ幼いからだろうか。
「なんか、最近増えてますね」
「……気持ちは分かるけど、とりあえず一旦クライズ・シティへ戻りましょ」
「……はい」
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