そして翌朝。
「ごめんね、ホントは今日はボクの順番なのに……」
上からの待機命令(不要不急の外出を禁ずる、って奴だ)という事情があるとは言え、自由に買い物すらできないと言うのは本当に不便で……ここはノラとチィ、2人に感謝だ。
「昨晩はエミニャが夜食用意してくれたし、お互い様ニャ。折角だし、昨日のシンクにゃんのデータ見てみたらどうかニャ?」
「うん、そのつもりだよ」
「ご主人、俺も手伝おうか?」
「うん、そうしてくれると助かるかも。1人じゃ時間掛かりそうだし」
「わかったー」
「それじゃ、エミニャとフィグニャにはお留守番頼むにゃ〜」
「今日はノラ様エミ様お二人共お休みですから、お昼ご飯はちょっと頑張っちゃいます!」
「うん、楽しみにしてるよ」
二人を見送って、一つ深呼吸……よしっ。
「さ、頑張ろっか」
「おう!」
まず手を着けたのは……専門家ではないので、参考文献を首っ引きで参照しつつ、2つのカルテを翻訳する作業だった。カルテってのは患者に病状を知られないように、わざと読みにくい言語で記載してる、なんて話をどこかで聞いた事があるが……結構それ、本当かもしれない。
多分に憶測の域を出ない翻訳に、ボクの脳味噌がストライキを起こし掛けた頃、ようやく全貌が分かってきた。
「なに、これ……」
言われた通り、遺伝子配列は殆ど同じだ。異なるのは、髪の色と瞳の色。そして、極一部の遺伝子配列のみ。一般的な水準で言えば……ボクと"彼女"は、双子と言って良い位の一致率だ。シンクがそう思うのも無理はない。
(ボクに……姉妹?)
ぐるぐると思考が空回りする。
ボクの家族が生きていたのであれば、当時の住所台帳を洗えばすぐ出てきたはずだ。でも、ウィル兄を初めとしたボクの"家族"は、一言もそんな事――。
(……っ)
頭の奥に広がる鈍痛。心の中のもやもやが、再びざわめく。"家族"を疑う訳じゃない。でも……変な違和感がどうしても拭えなくて。
(なんなんだよ、もう……!)
「ご主人?」
フィグの声に我に返る。
気がつくとディスプレイにはスクリーンセーバが流れていて、傍らのフィグが、不安そうな表情でこちらを見上げていた。
「フィグ?」
「大丈夫か?顔色悪いよ?」
「ぁ、うん……」
変に力の入った肩から力を抜き、一つ溜息。酷くだるい腕で、額を拭う。
「ちょっと、ね。さ、続き続き」
ごまかしの積もりでマウスパッドに触れると、メール着信アイコンが点滅していた。
|