Cross Point
3rd Night...[コワレタココロ、オボレルカラダ]



 




画面に表示されたのは、とある日付の新聞記事だった。
"遺伝子の権威、ミュール博士夫妻が謎の失踪――"
"部屋には争った痕跡があり――"
"残された長女も腕の骨を折る重傷で――"

「……ぁ」

そこまで読んで……唐突に、本当に唐突に、ボクの脳裏で一つの光景が再生された。
白い壁紙に残る、血糊の後。
紅い、イヤらしい笑みを浮かべた紅い陰。
お父さんと、お母さんが、ボクから離れていく光景。
必死に追い、縋りつこうとするボクに、紅い人影の取り巻きから容赦なく叩き込まれる暴力。

「……ぃ、や」

そして。
壁に激突し、腕の骨が折れ、倒れ込んだまま一歩も動けずに痛みにガクガクと震えていたボクの耳に届いた、あの子の――ルシーダの、悲鳴。

「あ……ぁ」

目を瞑っても、開いても。
延々と、その光景が再生されていく。「あの時」の恐怖と痛みが全てぶり返し、ボクを苛んでいく。
なぜ、今まで忘れていたんだろう。
なぜ、今まで思い出せなかったんだろう。
なぜ、何故、ナゼ……

「――うわああぁああぁあああああッッ!!!?」

もうボクには、目の前のモニタなど目に入っていなかった。ボクの視界にあるのは――。
身体の奥に刃を突き立てられたような、血反吐を吐くような。どうしようもない痛みと苦しみと、そして"自分が居なくなる"という恐怖感。
こんな……こんな苦しい思いをするのなら、思い出さない方がよかった――。

「イヤ、イヤあッ!!」

でもこれは、紛れもなくボク自身の記憶だ。記憶からは……逃げられない。

「エミーナ?!」

後ろから誰かがボクを羽交い締めにする。
ヤダ、怖いこわいコワイ……!!
猛然と身体を捻って逃れようとするけど、それは叶わない。

「やだ、イヤ、イヤアアァァアアッッ!!」

半狂乱で逃れようとするボクの唇に、柔らかくて暖かいものが押し当てられる。

(……ッ)

抱きとめられ、唇に暖かい感覚。
涙で滲んだ視界の先にいたのは……血にまみれた、嫌らしい笑みを浮かべる紅いキャストではなく。

「……ひっ……ぃる、兄……ッ」

青ざめた表情のウィル兄が、ボクの顔を覗き込んでいた。
ボクの一番大切な人。一番――、愛している人。
それ、なのに……。