「はぅ、ヒドい目に遭った……」
シンクの猛烈なアタックをなんとかかわして、端末腕環に情報を引き取ってきた帰り道。
見上げれば空はすっかり暗くなっていた。
「う〜、遅くなっちゃったなぁ」
手元の端末腕環の時計表示を見て溜息を吐く。
そして、余所見をしてたものだから……。
「うぁっ?!」
「ぉうっ?!」
曲がり角で、見事に正面衝突。
正直に言うと……その男の人のお腹に思い切りダイビングして思いっきり跳ね飛ばされた感じ。
端末腕環 は?!……大丈夫、よかったぁ……。
「あぃたたた、ごめんなさい……って、貴方は」
「おぅ、いいって事……おう、こないだの嬢ちゃんか?」
ボクの顔を見てびっくりする男の人。
よく見れば、それは先日3課の飲み会でお世話になった"Lunatic"の店長さんだった。
手に持つ大きな紙袋の中には色々な食材がたくさん……買い物の帰りだったみたい。
驚いたような表情を顔に張りつかせたまま固まってる店長さんを不思議に思って、手を貸しながら問いかける。
「ぇ、と……大丈夫ですか?何処か痛いところでも……」
「ぉ…あぁ、すまねぇな。よく似た娘を知っててよ?」
(ボクに良く似た子?それって、シンクが言ってた子じゃぁ……?)
聞こうか聞くまいかの一瞬の逡巡をしたところで、店長さんは苦笑しつつ、ボクにこう持ちかけてきた。
「……ふむ、こんなとこで嬢ちゃんと出会ったのも何かの縁だ。思い切りぶっ飛ばしちまったみたいだし、お詫びになんか食ってくか?」
「ぁ、えーっと……」
安易に受けていいものだろうか?でも…"似ている子"の事が気になることも確かだった。
「それじゃ……おぅ、丁度いい屋台も出てるし、そこにすっか」
ボクが悩んでいるうちに、店長さんは路肩にあった屋台の暖簾をくぐって行ってしまった。
屋台のチョウチンに、何か書いてある……。
『サヌキウドン屋U-don、ソバありません』
……妙な屋台だなぁ……??
「へいらっしゃー!」
慌てて男の人を追って暖簾をくぐると、何故か黒いアフロに色濃い目なグラサンを掛けた白い体という妙な風体の巨漢キャストが、これまた大声で迎えてくれた。
いまどき珍しい、木製の屋台にこれまた旧型のラジオがぶら下がって、そこからまたエンカっぽい、渋い歌が流れている。
(なんだか、今の時代にそぐわない気もするけど……?)
そんな風に考えていたら唐突に屋台の主人がクワッと目を見開いて言い放つ。
「関西風?ふざけるな!!讃岐は日本の魂だァァ!!!」
「ひぇっ?!」
あまりの大音声に、反射的に思わず身体を竦ませる。
「まぁまぁ大将。いつもの二つで頼まぁ」
「サヌキウドン2丁入りまーっ!!」
いきなり怒鳴られて目を白黒させるボクに、慣れているのか苦笑する店長さん。
「ちとここの大将は変わり者でなぁ。ま、味は折り紙つきだから安心してくれ」
「そ、そうですか……」
どう切り出したものかと考えていると……
「サヌキウドン2丁おまちぃ!」
あ、先に出てきちゃったか……。
「サヌキウドンってなぁな、アツアツを一気に食ってこそだ。冷めちまったら台無しだぜ?」
「……はぃ、いただきます」
丁度小腹がすいてた事もあり、結局ボクはご馳走になることにした。
ふんわり漂う美味しそうな出汁の匂いに勝てなかった、ってのが正直なところなのだけど。
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