「……そうか。 お前さん、過去を探してたのか」
コシのあるウドンという食べ物を堪能して一息。
店長さんはボクの話を聞いて、無精ひげの生えた顎を撫でた。
「……はい。一緒に居たはずの家族が何処にいるのか、今も分からないんです。
生きているなら、一緒に――すぐには昔と同じ様には出来ないかもですが、一緒に居たいんです」
「……過去に拘るのもいいだろうさ。
だがな嬢ちゃん、過去に目を向けたままじゃ大切なものを取り落とすことにならねぇか?」
「取り……落とす?」
「身近に居る奴が、いつまでも自分の傍らに居てくれるとは、限らねぇんだぜ?」
そんな事を言われ、ボクの脳裏にウィルやノラや……何人かの姿が過ぎる。
「本当の自分の気持ちに気づいた時、全てが手遅れの場合もある。そういう時どうする……?」
「……無理やり、前を向く?」
ボクの回答に、店長さんは苦笑を返す。
「50点ってとこだぁな、俺ぁそーいうのも嫌いじゃねぇが。
……過去に目を向けてもいい。だが、走る方向は過去にじゃない、未来へ向かって後ろに進め。未来に進めりゃ、その内後ろ向きから前向きに走れる時も来る」
「……屁理屈に聞こえます……」
「はっは、嬢ちゃんもうちのカカァと同じこと言うんだな……だが、人間なんてそんなもんだ。
過去に向かって全力で走っても、結局は過去には戻れねぇんだ。時間なんてベルトコンベアみたいなもんでな、執着して無理に抗おうとすれば、結局その場に留まり続けちまう」
「……」
「だから、後悔があったとしても、過去に目を向けつつも後ろ向きに進めば、何れ大事なモンも自ずとついてくる筈だ」
端末腕環 をそっと撫でる。
店長さんの言ってる事は、身に染みていた。
(ウィルの、事)
もう少しで、出会う事すら出来なくなったかもしれない彼。
(ルシーダの、事)
あの時、ボクに力が無いばかりに、目の前で連れ去られた彼女。
「……」
この中に入っている情報は、本当にボクとルシーダの過去へと導いてくれるだろうか?
この中に入っている情報は、本当にボクとルシーダに未来を語ってくれるだろうか?
――それを知る為には、やっぱり後ろ向きでも、先へと進むしかない。
知りたいと。彼女と一緒に生きて、往きたいと思った時点で。
過去へ戻る選択肢は、最初から無い。右胸の痛みと共に、それを改めて思う。
「理解できたみてぇだな。
俺が言えるのはここまでだ。……また、どっかで会えたらいいな、嬢ちゃん」
「ありやっしたー!」
「あ、店長さん……?!」
お金を払おうと財布を取り出そうとした隙に店長さんはさっさと二人分払い、紙袋を手にして歩いていってしまい。
ボクが振り向いた時には、夕闇に姿が見えなくなってしまっていた。
なんだか結局はぐらかされてしまったようで、明確は答えは貰えなかったけれど。
(ボクは……もう逃げない)
それだけを胸に刻んで、ボクは店を後に帰り道を進んでいった。
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