調査を開始して30分。
それだけでも、 ローゼノムの惨状は思っていたよりも酷いものだった事が分かった。
落下地点から80kmほど離れているパルム首都でも気になっていた事だけど……爆心地にほど近いこのエリアの空は、未だにメインシャフト落下時に吹き上がった土砂がチリとなって空中に漂っているのか、晴れていても仄かに薄暗い。
茶色く濁った海の波間に所々に見える、崩壊した低層ビル群や、形を残してはいても表面のコーティングが吹き飛んで見るも無惨な姿を晒す高層建築物が、多数の墓標を思わせるようで、不気味さをより増長させていた。
端末腕環でエリアマップを見る限りでは、ボクらは東地区・第7層から進入した事が示されている。
ただ、辛うじて生きていた現地の情報端末で吸い出した最新の情報によれば、何処のエリアも第3層から最下層のB5階層――リニアやSEEDに感染した貨物特急が走っていた路線だ――までは完全に浸水しているらしく、近寄れる状態ではないようだった。
そして、未だ生命と思しき熱源反応の反応は無し……。
ボクら二人の足音と、息づかい以外に聞こえるものは、風と廃墟が奏でる高く低く響く重い音と、水音のみ。
(……まるで、地獄に足を踏み込んだみたいだな)
風景を見てそう思い……音がまるで犠牲者の怨嗟の声となって襲ってくる気がして。
ボクは思わず首をすくめ、小さく首を振った。
「これより下は小型探査艇が必要ですね……。ここまで持ち込むとなると、骨ですけど」
「そう……だな」
東地区・第4層のぎりぎり先端まで降りてきてみると、惨状は更に酷くなっていた。
激突時の大津波で破壊されたのだろう、数m下の下層へと続く入り口だったものに、濁った水が打ち寄せる。
そんな風景を見つめて……彼女はどこか、心ここにあらずといった雰囲気だった。
「…大丈夫ですか?具合でも悪いの…?」
「ぇ……あぁ、問題ない。次のポイントへ行こう」
ティル――ルシーダは、何かを振り払うかのように首を振り、ボクに先へ進むよう促した。
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