Cross Point
5th Night...[ホントウノキモチ]



 




調査を開始して、約1時間。
彼女の性格が、なんとなく掴めてきた。
普段無表情ではあるけれど、感情が全くないわけじゃない。寧ろ、無理やり押し留めてる感じ……これが生き方の違い、というか、生活する環境の違いという事なのだろうか。
彼女だって笑いもするし、怒りもする。そんな当たり前のことに、ボクは安心していた。
安心していたが故、最悪の事態を頭から無意識に追い出してしまっていたのかもしれない。

「準備いいか?」
「OK。最大稼働時間、約40秒」
「十分だ……カウント・スタート」

第32層、最上階。
非常電源のエンジン音と煤煙と共に、ごうんっ、と重々しい音をたてて最後のポイントへと続く薄汚れた隔壁が開いていく。

「……!!ッ」

長く開いていなかったのだろう、スエた臭気が鼻を突いた瞬間、ボクはナノトランサーのショートカット・ラックからクレアダブルスを選択し、重みを腕に感じたところで、反射的にルシーダを庇うように前へ出る。
横目で見れば、彼女も見慣れないタイプの両手剣のような、両手槍のような、奇妙な武器を手にしていた。

「たは……これはちとヤバぃ、かな……?」
「数が多いだけだ。やり方さえ間違えなければどうって事ない。行くぞ」

そういう意味で言ったのではなかったのだけど……彼女は、この臭気を感じていないのだろうか。
その言葉に奇妙な違和感を覚えつつ、ボクは前方を見る。
隔壁の向こうにいたのは、山ほどの犬のような敵性生物。通路手前のここから見るだけでも、10や20じゃ収まらない数だ。なんだってこんな狭いところに固まって……?
しかも、こいつらは奥へ奥へと向かおうとしているようだ。

「さぁね。考えられるとすれば、………」

相手をおびき出し、"駆除"しながらボクの呟きが聞こえたのか、彼女は何事かを口にした。
奥に進むに従って、匂いが強まっていき……何かが確信に変わっていく。この仕事に就いてから、未だにボクが慣れないもの。
即ち。
濃密な、血の匂い。
これ以上、進みたくはなかった。見たくはなかった。
でも。
見届けなければならない、とも思った。今までのルシーダを知って、全てを受け入れる為に。