「……っ?!」
目を覚ますと、一面真っ白だった。
ふわふわしていて、感覚がない。
(あぁ、ボクは――やっぱり死んじゃったの、かな)
「エミ姉ーッ!!」
「ぅわっぷ?!」
いきなり降ってきたのは、よく知る声と重さ。
よく見れば……涙を瞳一杯に貯めて、こちらを見下ろすノラだった。
「ぅ、痛てて……ここは……?」
「隊員用の病院にゃ……。
エミ姉……よかった……よかった……よぉ……」
「お、オレみんな呼んでくるっ!」
言葉にならずボロボロと涙を流すノラと、その背後で慌てた声。
この声は……フィグだろうか。
ボク……そっか、生きてたんだ。
うまく回らない頭で、何処か他人事のように思う。
……そうだ、ルシーダは?
「ねぇ、ノラ……ルシーダは、どこ?」
「……あの子は」
言い辛そうに、ノラはボクに告げた。
「……エミ姉、落ち着いて聞いてね。
ルシーダは……意識不明の重体。今も予断を許さない状況なの……エミ姉を守ろうとした時に、相当無茶したみたいで……」
「……そ、んな」
そんな事って。
大事なものを無理矢理剥ぎ取られたような、喪失感。
せっかく、お互いを分かりあえたかもしれないのに。
全部……全部ボクの、せいだ……!
「ルシーダの……ルシーダの病室は?!」
「エミ姉、無茶しないで!
あの子はICU(集中治療室)入ってるし、エミ姉だって今目覚めたばかりでしょッ!」
「……何で……何で、あの子ばっかり……、こんな目にっ?!」
瞬間的に思考が怒りで支配され、ボクは動く左手で、力いっぱいベッドを殴る。
何度も、何度も。止まらなかった。
何故あの子ばかり、生死を彷徨うような酷い目に遭わなきゃいけない?!
守るって言っておいて、彼女は重傷で。
ボクは、このザマで。
(……そったれェッ!)
悔しくて、情けなくて。
思わず起きあがろうとしたボクに、ノラが強い視線でこちらを見つめて制止してくる。
「ダメ、落ち着いてエミ姉!」
……分かってるんだ。ボクが行ったところで何の役にも立たないってことくらいは。
でも心のどこかでルシーダを求めてる自分がいることも、また事実だった。
暫くにらみ合いを続けることしばし……ふと視線を下に逸らしたノラが、ぽつりと呟く。
「……あんまり……心配させないでよ……エミ姉。
あの子が……大切な妹だって事も、分かるよ?
でも……だからって!エミ姉がより多く傷つけばいいってわけでもないでしょう!?
貴女は、そしてあの子も!お互いそういう事を望んでる訳じゃないでしょう?!
それに……エミ姉が……エミ姉までいなくなったら、ノラ、は……」
小さく身震いして、しがみついてくる。
「ノラ?」
「……ッ」
答えの代わりに、すがりついてきたノラの体温が、想いが――嬉しくて、切なくて。
不意に、込み上げて――溢れる。
「……ごめん。……ごめん、ね、ノラ……」
どれだけ心配を掛けていたかを思い至り、申し訳ない気持ちで一杯になって。
でも、謝る事しか出来なかった。
そっか。
そうだよ、ね。
ボクがルシーダの身を案じるように、ボクにもこうして身を案じてくれる人がいる。
いつからか、いつの間にか……それが当然になって、忘れてしまっていた事。
ボクが今生きている事を、そしてこの小さな親友がボクと同じ時を生きてくれている事を感謝しながら……ボクもまた、知らず涙を流していた。
(それに……)
そう、 あの子の命の灯が消えてしまったわけじゃない。
うぅん、死に掛けたボクが生きてたんだ。ルシーダは、絶対大丈夫。
誰かが信じてあげなきゃ、今度こそ彼女は一人ぼっちになってしまう。
「……そこは、ゴメンじゃなくてありがとう、にゃよ?今は、ゆっくり休むにゃ、エミ姉」
「ぅん……、あり、がと……」
ようやく微笑んで、笑ったようなノラの声と。
ちょっと高めのその体温が、ボクの身体に、心に沁み込んで行く。
その暖かさに気が緩んでしまったのか…不意に強烈な眠気に襲われ、ボクは再び意識を手放した。
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