:XDay +1"ホントウノキモチ" 
 
 
Cross Point



 



早朝のエアカーもまばらな専用道路を風を切って疾走しつつ、ハイウェイランプへと向かう道すがら。
ヘルメットに内蔵されているアイマウスでフォン機能を呼び出し、ボクはシンクと連絡を取ろうとして―。

(……)

思い直し、ボクは以前シンクに教えてもらった、暗号回線で改めて連絡を入れることにした。
暫くコールを続けた後、ようやく相手が出る気配がする。
考えたら、こんな時間なのだから起きている可能性は低かったわけで。
…悪い事したかなぁ。

「…シンク、起きてる?」
『おはよエミーナ、早いわね…ぁふあ…』

暗号複合時に出る特有の金属的なノイズと共に、眠そうなシンクが大欠伸するのが聞こえる。

「ん…ちょっと気になる事があってさ、調べて欲しいんだけど、いいかな?…至急で」
『ふむ…フィグっちの件も含めると、ちょっと高くつくわよ?』

うはー…、いきなり痛いところ突かれてしまった。
そりゃまぁそうだよね、シンクだって慈善事業でこんな事やってるわけじゃないだろうし…。

「う…今月ちょっと厳しくて…」

等と言葉を濁しつつ、どうしようかと考えてたところで。

『エミーナの身体で払ってくれてもいいのよ?…むしろアタシはその方がいいなぁ♪』
「へ、身体…って…えぇぇえぇっ?!」

突拍子もないシンクの言葉に、昨晩の出来事を思い出して激しく動揺する。
あっぶな…危うく中央分離帯に激突するとこだったよ…。

「っぷぷ、アタシはエッチな事だなんて言ってないわヨ?
 もしかしてエミって、潜在的にそゆコト望んでたりしてする?
 それならそうと言ってくれればお姉さんが幾らでも…』
「いやいやいやいやボク一応ノーマルだし…って違ッ!!
 そうじゃないっしょ?!」

完っ全に遊ばれてるなぁ…もぅ。

『ごめんごめん、今度何か買い物に付き合って、て事よ。
 それはそうと…。
 そろそろ聞いてくる頃だとは思ってたわ。何が聞きたい?』

前置き長いよ!と内心で一つため息を吐いてから。
ボクはエアバイクをオートクルーズモードにして、ヘルメットに資料を表示させた。

「一人、調べて欲しい人が居るんだ。
 名前はティル・ベルクラント、年齢19歳。女性、ニューマン。
 現在惑星間警備組織"ガーディアンズ"機動警備部3課所属。
 ボクが今持ってる情報はこれ位だけど…」
『…ティル・ベルクラント?』
「知ってるの?」
『知ってるもなにも…こないだエミに話した、あの女の人よ。カルテでも確認したわ、間違いないわね』
「顔写真とかある?」
『不鮮明な奴でよければ』
「見せて」

送信されてきた写真は、廃墟のような所で数人の男と喧嘩…というより一方的な攻撃を加えている、黒っぽい服に身を包んだ一人の赤毛の女の姿。
顔ははっきり見えないけど、確信があった。

「シンク、ボク…この子に会いに行ってみるよ。
 彼女に呼ばれたんだ、ローゼノムの被害調査に」

一瞬の間の後―シンクの声音が硬い、平坦なものになる。

『…やめた方がいいわ』
「それは友達として?それとも"ビジネス"として?
 …一応、ガーディアンズネットワーク経由の正式な依頼だよ?」

ボクの言葉の裏にある怒りに気がついたのか、慌ててシンクは言い直す。

『もちろん、友達としてよ。エミの事が心配なんだってば。
 敢えて言わせてもらうけど…あの子のバック、相当大きい所かもしれない。
 ご禁制の薬品堂々と使えるくらいの…そもそも表の人間なら、アタシみたいなモグリの医者なんて掛からないし。
 それに…。
 大きな所じゃ、ガーディアンズ・ネットワークにハッキング掛けて偽情報流す位普通にやるって噂よ?』

ぱちりとまた一つ、ピースが胸の中で嵌まる音がした。
記憶の中の赤い影…痛みを乗り越えられた、今なら分かる。
レンヴォルト・マガシ―エンドラム機関の過激な司令官で…。
今では"イルミナス"に属していると聞く。
ティルは、ルシーダだ…間違いない。
そして。
あの子は…恐らくそこに居る。

「シンク、ありがと。お陰で会う勇気が出たよ」
『エミーナ、絶対何かあるよこれ?やめなって!』
「分かってる…」
『分かってるなら…!!』

シンクが心底心配してくれてるのも分かっていた。
だけど…ここからは、ボクら姉妹の問題だから。
ボクが行かなきゃ、意味がないから。

「罠だって分かってても…妹を助けるのに理由はいらないでしょ?
 あと、ウィルに伝えて…"全部思い出しちゃって、ゴメン"って」
『エミ?妹って…ちょっとエ…』

一方的に通信を切り、ボクは更にアクセルを捻った。
落石をスラロームでかわし、 崩落部分は加速して跳び超え。
目指す先は…"爆心地"から程近い、ゴーストタウンと化したローゼノム・シティの中心部へ。