「…そんな」
490から語られたこと…信じたくなくて、違うと言って欲しくて。
ボクは、震える声でルシーダに語りかける。
「嘘だよね…?嘘だって…言ってよ。
コレが…キミが望んだ事だっていうの?」
「…あぁ」
肯定されて…後頭部を殴られたようなショックがボクを襲った。
そんな、事って…。
せっかく、せっかく会えたのに。こんなのって…ないよ。
「どうしたティル・ベルクラント。
貴様が終わらせないのであれば、俺が終わらせるまでだが?」
「…いや、僕にやらせてくれ。決着は、この手で付ける」
青ざめた表情で、手に持つ武器をゆっくりと引き上げて。
ゆらり、とこちらを振り向くルシーダ。
その唇が、小さく動く。
『僕は…正直やる気は無い。ただ、本気で掛かってこい…アイツに殺されたくなければ』
そう。
そう言っているように"聴こえた"。
彼女は声を発していないし、それはただの唇の震えだったのかもしれなかったけれど。
「…やるしか、ないんだね」
そう、やるしかないんだ。
アイツが隙を作れば…あるいは。
「…ッ」
一瞬、虚を突かれたような表情を浮かべたルシーダは、複雑な表情でこちらを見る。
この数時間で、表情豊かとはいえない彼女でも、感情がある事は分かっていた。
苦しげな、それでいてほっとしたようにも見える、顔。
「…いくぞ!」
それら全てを振り払うように声を絞り上げ、ルシーダがこちらへ向かって突進する。
…速い!
足を狙って横薙ぎに払われた大型の武器を、ボクは咄嗟に持ち替えたクレアダブルスの下端のブレードで受けた。
(くっ…!)
速くて、重い一撃。
受け止める事が瞬時に無理であることを悟り、受けから受け流し、そのまま攻めへ転じる。
一つ一つのダメージが少なくとも、連続する追撃で相手に攻撃の隙を与えない。
ダブルセイバーの基本を護りつつ、突攻撃を繰り出す。
(避けて…!)
言われたことが分かるかのように、身体を逸らし、顎を振り上げ、ギリギリで避けるルシーダ。
不安定な体勢のまま、引き途中のダブルスの刃を強引に手持ちの槍で弾き、その反動を利用して間合いを取る。
凄いな。相手の力と自分の力を瞬時に、それも正確に把握できてなきゃこんな芸当は出来ない。
そして訪れる、一瞬の静寂。
彼女は左下に刃先を向けて構え、ボクはダブルスを持つ右手を軽く引いて連撃に繋げられるような体勢。
構えたまま、ボクは分からないように小さく、ほんの小さく頷いた。
ルシーダも、同じ考えでいてくれると信じて。
(あ…)
ルシーダもまた、小さく頷き返してくれる。それを合図に、再び二人の刃が激突した。
かわし、かわされ。攻め込み、攻め込まれ。
ボクはいつの間にか、この戦いに引き込まれていた。
撃てば響くような応酬が、純粋に楽しかったのかもしれない。
でも…それは長くは続いてくれない。
再びお互いが距離をとった時に、"アイツ"が動き出した。
「嘗められたものだな、あぁ?」
490は抜き身の片手剣を両手にぶら下げ、ルシーダに近づきながら一人ごちる。
「ティル・ベルクラント…。
誰が貴様の才能を見極めたと思っている?誰が貴様を鍛え上げたと思っている?
誰が…ニューマンの分際で貴様を生かしてやっていたと思っている!!!
貴様らの茶番など、先刻承知だ!
…生体戦闘機械の破損を確認。規則に従い、ここで処分する…死ねぇいっ!!!」
ツーヘッドラグナスの燃える刃が、ルシーダ目掛けて振り下ろされる。
…呆然と、反撃しようとする素振りすら見せないルシーダ。
ダメ…ダメだよ…!!!
想像に容易い未来を否定する為に、ボクは全力で動いた。
そして―。
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