叫び、無我夢中で走り−ルシーダを突き飛ばす。
彼女の背中から心臓をねらった一撃は、彼女の髪を数本切り飛ばすだけで済んだ。
しかし…。
「あぐっ!?」
振り降ろされた片手剣の切っ先がボクの肩に触れ、切り裂かれる。
とっさに避けたつもりだったけど…甘かった。
地面が迫ってきて…次の瞬間にはボクは地面に伏せていて。
「ぅ…ぐッ」
倒れた瞬間、痺れたように右肩から先の腕の感覚がなくなっていて。
(骨か神経、やっちゃったかな…)
力を入れようとした途端、激痛が走った。
「…くぁ…っ?!」
痛みは、ある…腕が斬り飛ばされるなんて事にはなってなかったようだ。
でも。
じわり、と服に広がる生暖かい感触に、まだ動く左腕で、痛みを堪えながら右肩に触れてみる。
手のひらには…。
「…血?」
それもかなりの量だ。
反射的に傷を押さえつけたけど、心臓の動きとともにじわじわと溢れ出て、上着を濡らしていくのが分かる。
それと同時に、事実を認識した身体が瞬間的にショック状態に陥って硬直するのも分かった。
(まずい…)
ショック死しなかっただけ儲けものかもしれない。
切り飛ばされた訳ではなかったけど…痺れたままの右腕は、もう動かせそうになかった。
(…そうだ、止血剤…!)
血で滑る、震える左手で首に括りつけてあるナノトランサーを操作し、残っていた止血剤代わりのデフバライドを口に含む。
鉄の味が口の中に広がり…吐きそうになりながらもなんとか飲み込んだ。
その時だった。彼女が絶叫を挙げたのは。
こちらをちらりと見て―今までと違う、力の籠もった視線を2体のキャストへ向けるルシーダ。
その表情…一種の、悲壮な覚悟を感じさせる横顔に、ボクは嫌な予感を覚える。
ダメ…そんなの、ボクは望んじゃいない…!
「ルシーダ…だめ…!」
「これまでの僕を、ここで終わらせる。だからちょっとだけ、ここで見ていて、"姉さん"…」
後ろ背に、はっきりと聞こえた、その言葉。
姉さん、て…。
ボクの事…思い出して、くれたの?
でもこのままじゃ…キミは。
「…」
言い掛けるボクに、彼女は少し振り向いて…微笑みを浮かべた。
柔らかで、穏やかな…ボクが一番見たかった、一番知っていた、笑顔。
(…ぁ、ルシーダ…笑ってる…?)
小さく頷き、ボクを庇うように立つルシーダ。
そして。
突っ込んできた490とマガシを迎撃する為、彼女もまた、突っ込んでいった―。
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