そして、それから1週間が過ぎた。
「ルシーダ…」
ドアを後ろ手に閉じて。
清潔な部屋の中で、ボクは小さく呼びかける。
ボクとそっくりな赤毛の彼女は、未だベッドの上で昏々と眠り続けていた。
キソヴィに聞いた話だと、彼女の意識が回復するかどうかは"分の悪い勝負"、だと言っていた。
ましてや、普通の生活に戻れるかどうかに関しては…。
いや、深くは考えまい。
いつものように、彼女が眠るベッドに浅く腰掛け、最近の日課として続けている事を、いつも通りに呼びかける。
「ルシーダ…」
何度目になるか分からない、呼びかけ。
でも、無駄なことだとはこれっぽっちも思っていない。
あの時、ボクを庇って戦ってくれたルシーダは…ボクが死の瀬戸際に居た時、必死に呼びかけてくれた。
おかげでボクは今、ここに居られる。
今度は、ボクが助ける番だから。
「ルシーダ…」
ボクら二人の距離が、縮まるようにと。
呼びかけながら、願う。
「…せっかく会えたのに、また一人になるつもり?」
強がってそんな事を言ってみるけれど。
ルシーダの頬へ、ぽつり、ぽつりと滴が落ちる。
「帰って…来てよ…。
まだ話したいことも、聞きたいことも、たくさんあるんだよ?」
ボク、駄目だなぁ。最近涙脆くなってる気がする。
"あの時"から、泣かないって、いつも笑っていようって、誓ったはずなのに、ね。
「ぐすっ…キミのせい、なんだから」
全てを思い出してから、ボクは泣き虫に戻ってしまったみたいだった。
「ふにゃ?エミニャ、今日も来てたにゃ?」
「…ぁ、ノラ」
こないだの事件で、一応ボクもルシーダも、重要参考人扱いなわけで。
実は今居る病棟、VIP待遇の個室だったりする。
終日護衛が張り付いて、セキュリティもかなりしっかりしてて。
大きな部屋でしっかり療養をとは言われたの、だが。
だだっ広い部屋に一人、というのは…小さい頃を思い出してちょっとキツいものがあるので、こうやってルシーダの顔を見に来たりしてる。
「また抜け出してたにゃね?エミニャは悪い子ニャ〜」
護衛が入れ替わったようで、ノラが挨拶をしに部屋に入ってきていた。
慌てて涙を拭って、そちらへ顔を向ける。
「……エミ姉」
「あは、バレちゃうか…ノラ、には」
ノラの心配そうな声音。
不思議と、彼女には隠し事が出来ない。
彼女の感が鋭いのもある。けど…なんだろう。
「ルシちゃんは大丈夫。
きっと、エミ姉の元に戻ってくるよ」
「…うん」
ノラには、過去や未来を見通す力があるみたいな気がする。
ボクより年下のはずなのに、時々、ボクより何倍も長く生きてきたかのような…そんな風に見えるときがある。
一緒に居ると不思議な安心感を覚える、っていうのかな。
「だから元気だして、ね?」
「…うん」
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