:XDay +30"アルキダシタキモチ" 
 
 
Cross Point








「ふぅ…」

夜。
消灯時間になっても、ボクは電気スタンドをつけたままでベッドに寝ころんで考えていた。
仕事も終わってなかったし、なにより―
ルシーダと会う時の自分の気持ちを、想いを…今の自分なりに整理したかったのだ。

(ボクは、あの子と逢って、何がしたいんだろう?)

一緒にいたいから。一緒に過ごしたいから。
時折見せた、彼女の切なそうな、それでいて苦しげな表情が見ていられなくて。
そう。
危うげなルシーダを、支えてあげたかったんだ。
では―。

(生きる事って…生きていく事って、何だろう?)

生きていく事…。
一言で言うにはあまりにも広すぎる、その意味。
単純な所で言えば、人間の5大欲求も含まれるだろうし。
一緒に過ごしていく事だって含まれるはずだ。
もっと言ってしまえば、家族を作って子を成して、次の世代へ繋げていく事も、大きな括りとして含まれると思うし…結局その形は、人の数だけ、その思いだけあるんだろう。
つまりは、いろんな事が絡み合って…そうしたモノが初めて"生きる"って事に繋がるんじゃないだろうか。

(ボクは…)

今まで、どことなく彩度の低いような…そんな毎日を過ごして生きてきたけれど。
そんな、なんでもない穏やかな日常こそ、貴重なんだと。
大切な人と一緒に生きていく事こそ、幸せなんだと。
今回の一連の事件で、ボクはそれを身を持って知った。
知った事でボクの毎日は、はっきりした色彩の中に現れ始めた。

(ルシーダは…)

今まで、そういう事を感じたくても感じられず、思う事すら出来なかった。
彩度というモノ自体、そもそも無かったのかも知れない。
どこまで行ってもひたすらにモノトーンの世界。
その中で淡々と続いていく毎日…それを思うと、胸が苦しくなる。
ボクばっかり良い思いをしてきたような、そんな気がしてしまうのだ。

(でも…これからは、そうじゃない)

これから、思いを感じていけばいい。
先を見ていけばいい。
毎日の彩度を、塗っていけばいい。
ボクらの出会いは、確かに最悪だったかもしれない。
けれど。
あの時、互いを想いあった気持ちが真実ならば。
20年のすれ違いさえ、今からでも間を埋めていく事は出来るはずだ。

(少なくともボクは…キミと一緒に生きたいって望んでる)

絶望だけじゃない、希望だってあるんだよ、って。
キミは、望まれて此処にいるんだよ、って。
時には一緒に笑って、時には一緒に泣いて。
そうやって、彼女に色々な事を教えてあげたかった。

「…なんだ」

結局、答えは出てたんだな。
ボクは最初から、ルシーダに拒否されても、否定されても、一緒に歩んで行きたいと望んでいたわけで…。

(ボクみたいな浅はかな考えじゃ、こんなもんかぁ…)

自分に自分で苦笑する。
紆余曲折、回り道の果てに結局元に戻るってのは…。
まぁ、不器用なボクらしいと言えばらしいのかも知れない。
…感情なんて、そうそう器用に動かせるモノじゃないし。

「さぁて、もう少しがんばらなきゃ!」

スッキリした所で、資料の山を見て萎えそうになる気分を奮い立たせて、ボクは手元に端末を引き寄せた。