結局、ルシーダが意識を取り戻してからはなんやかんやと理由を付けられ、ボクが入院している間は会う事は遂に叶わなかった。
確かに、一時的にしろ命のやりとりをした相手でもあるし、何より彼女は"イルミナス"のデリータの一員だった人間。
ボクが気にしなくとも、上の方が慎重になるのも分からなくはなかった。
けれど…。
「結局、その辺りの事情や機微ってのは、当事者じゃないと分からないって事なのかな…」
退院して、迎えにきたウィルのエアカーの中。
まだぎこちない右肩を、左手で包み込みながら…ぼんやりと、夕陽に染まる街並み―病院の方向を見ながら呟いたボクの独り言に、彼はハンドルを握り、視線を前に向けたままで言った。
「本格的な事情聴取はこれからだって話だしな…」
「ウィル兄だって、あの子の眼を見れば分かるよ?」
「エミはそういう所を見抜くのが得意だからな、そう言うならそうだろう。俺は心配してないよ。
…だが、どうしても他人の手を強制的に入れなきゃいけない場合もある。例えそれが当人達の間でもう"終わった事"だとしてもな。
しかもその相手が、巨大な敵対組織に所属していたとくればなおさら。それが、公安組織ってもんさ」
「……」
分かってはいるんだ。彼の言ってる事は真実だし。
納得できないのは…まだボクが精神的に子供だからだろうか。
落ち込み半分、不満半分で押し黙ったボクをちらりと横目で見て、ウィルが苦笑した。
「ただ…」
「ただ?」
「肉親や、家族がそんな目に遭っていたとすれば、俺もエミと同じ事考えたし、行動を起こすだろうさ」
「それ聞いて、ちょっと安心した…」
「俺も人間だから、な」
にっと笑みを浮かべる彼が、とても誇らしく見えて。
とても、かっこよく見えて。
「…えへへ」
つい、ニヤけてしまう。
自慢の兄さん。でも、遠い存在だった兄さん。
離れてたと感じてたのは、実はボクの気のせいだったのかも知れないけど。
…でも、今は。
その距離感が、縮まったと感じられた事が嬉しかった。
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