その後、航宙旅客機パイロットの養父さんと、アテンダントとして同じ航宙旅客機に乗務している養母さんとイフィ姉―人間よりよっぽど人間らしいキャストの姉さん―は、運行の都合で今夜は帰れないと連絡が入り。
残るイフィ姉の妹で、やっぱりキャストのセラフィムはメンテで入院中、と。
て、ことは…。
「またもやボクら二人だけ、かぁ」
「運がいいのか悪いのか、ってとこだな」
リビングで一息ついた後。
冷えた白ワインの小さめなボトルと、二つのグラスを持ってウィル兄が苦笑混じりに言った。
二人だけ、というのは…確かに暗に望んでた事だけれど。
こないだ自分がしでかした事を思い出すと、ちょっと胸が苦しくなる。
「まずは…退院おめでとう。そしてお帰り、エミーナ」
「ただいま…ウィル」
小さくグラスが触れ合い、澄んだ音が部屋に響く。
「えへへ…」
「どした?」
「ん、なんかね…。こういうのいいなぁ、って…」
しばらく、静かに二人で飲み交わす。
その沈黙が、軽く酔いの回ってきた身体に心地よかった。
「そいえばさっきの答え、聞いてなかったな」
唐突にウィルは言って、ボクの手を取り、瞳を覗き込んでくる。
穏やかで、優しげな…ボクの、一番好きな表情。
でもボクは、その表情に竦められた様に動けなくなる。
(ぁ…)
ココロに、カラダに、なんともいえない痺れが走る。
とても幸せな気分だけど、さっきとは別の意味で…胸が、苦しい。
せっかく治まっていた胸の鼓動が、凄い勢いで騒ぎ出す。
な、なんでこういうタイミングで…っ!
「ぁ…ぇと…」
思考は空回りして、胸はドキドキしっ放しで。
なんだか、気持ちが高ぶって…泣きそうだった。
…思いが通じたと同時に、ボクの初恋は終わりを告げるはずだった。ほんとは、こんな事許されるはずも無かった。
でも、彼はそれでいいと言ってくれた。異性として愛してくれると、そう言ってくれたんだ。
そう思うと、ココロとカラダの痺れは、一層酷くなる。
「…ずるいよ、ウィル。
あんなタイミングで…。あんな事言われたら、されたら…されちゃったら…!」
「―好きな女に、こういうことするのは不自然かな?」
「ひゃ…っ!?」
手の甲に、そっとキスしてくれた。
その感触に。
最後の抵抗をしていた理性がふっつりと切れ、只でさえまともに働かなくなっていた思考は、その一撃で完全にショートしてしまった。
頭の中、ぽーっとしちゃって…ぼんやりとしてしまう。
後に残ったのは…本能に繋がった、生の感情。
(…もぅ、ダメ)
そう。
もう、いいんだ…我慢しなくたって。
自分の想いに、気持ちに…正直に。
「ボク…ずっと、ウィルと一緒にいたい。
女としてキミを愛したい…愛されたい…!」
叫んで、ウィルの胸元に飛び込んだ。
優しく抱きしめ返してくれたその胸で、ボクはタガが外れたかのように…。
ぼろぼろと涙を零して、何年かぶりに声を挙げて泣いた。
それこそ、胸のつかえが取れたかのように。
ウィル…ボクの、一番、一番大切なひと。
もう、絶対離さないから。
大好き…だいすき、だよ。
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