:XDay+45 スタート・ライン 
 
 
Cross Point






「緊張、するなぁ」
「ビジフォンで何度も会話してんだろ?今更何ビビってやがる」
「うん、でも…」

ボクが退院して、1週間。
ようやくルシーダとの直の面会が許されたボクは、当然すぐ会いに行く事にしたのだけど。

「面と向かって、てのはやっぱり緊張するよ」
「ハン、そんなもんかね」

長身を窮屈そうにバケットシートに収めて、エアカーのハンドルを握りつつ呆れたように鼻を鳴らしたのは、ボクが所属する、我らが機動警備部3課の課長、PB。
一応、まだ警戒態勢が続行されているための措置らしいけど、実の所かなり心配してくれてて、今日も付いてきてくれたらしい。
…忙しいはずなのにね、この人。

「そんなもん、だよ」
「へっ、言うようになったじゃねーか。休暇中イイ事でもあったか?」
「?!っ」

真っ赤になって思い切りむせこんだボクを見て、PBは愉快そうに笑った。

「なんだ、図星か。ったく、よーやくウィルの奴その気になりやがったか…」
「な、なにが?」
「何でもない。
 ま、俺としちゃお前さん達が早いとこ復帰してくれねーと困るんでな。…無理せず、なるだけ早く戻ってこい」
「…分かってますよ、隊長」
「隊長はよせ、ガラじゃぁねーよ」

彼らしい物言いに苦笑を返して、前を見る。
いつの間にか、病院はすぐ目の前になっていた。



相変わらず、物々しい警備体制の病院の
中を顔パスで通り抜け、目的の部屋の前が見えてくる。
PBとキソヴィが、ボクの様子にやれやれと苦笑しているように見えたが、ボクはそれに気付かない程に緊張していた。
扉の前で、大きく深呼吸を2、3回。

(よしっ)

とんとん、と軽くノック。

「どうぞ…開いてるよ」

ビジフォンで聞くのと同じ、落ち着いた声が響く。

「…久しぶり」
「うん、久しぶり」

スライドドアを開き、にっこり笑ってそう告げて―
お互い、どんな顔をすればいいか分からなくて苦笑いする。
やがてルシーダが微苦笑のままで、ぽんぽん、とベッドの上を軽く叩いた。
隣に座って、って事らしい。
ベッドに腰掛け、ルシーダに顔を向けたところで。
すっ、彼女の手がボクの肩に伸びる。

「エミ……姉さん…」
「わっ?」

ぎゅって、抱きつかれた。
不意の行動に、頭の中が真っ白になる。
暖かな、ルシーダの身体と、途切れ途切れに聞こえる、ボクを呼ぶ声。

(ルシーダ…)

ウィルに感じる愛情とは、また違ったベクトルの愛しさに胸がいっぱいになって、ボクも抱きしめ返す。ただ、ルシーダという存在が此処に居てくれるのが、嬉しくて…愛しかった。
本当に、本当に…生きててくれて、よかった…。

「最初から、こうしていればよかった…」
「うん…そだ、ね」

言葉なんて、最初から不要だったんだ。
暫くボクらはしっかりと抱きあい…無言のまま、お互いの体温を、存在を確かめ合っていた。