:XDay+45 スタート・ライン 
 
 
Cross Point






「会って欲しい、人がいるんだ」

ようやく落ち着いた頃に、ルシーダはそう、ぽつりと呟いた。

「今からって、外出許可とか…」
「…大丈夫。近いし、許可も取ってある。
 ほんとなら、もっと早く君に紹介したかった人、だよ」

ボクは暫し考えて―

「…うん、分かった」
「エミーナ」

二つ返事で了承したボクに、PBが小声で言い掛けるけど…振り向いてそれを遮る。
…これはルシーダの"リハビリ"に必要な事だと、ボクは直感していた。邪魔されちゃいけない、って。

「…妹を信用できないなんて、そんなの姉失格だもの」
「しかしな…」
「言ったでしょ、…ボクが全責任持つって」
「…一応相応の準備だけはさせてくれ。警備隊長としてそこは譲れん」
「心配性だよね、PBは」
「慎重と言ってくれよ、せめて。
 …ったく、こりゃエラいタマ捕まえたな、ウィルよ…」

肩をすくめた彼にニッと笑い掛けて、ボクはルシーダに向き直る。

「場所は、何処なの?」
「近くの、公園墓地だよ」





散歩コースだという道を歩くこと、病院から大体10分程。
晩夏の涼やかな風が吹く、パルム海を一望できる小高い丘の上で、その人は眠っていた。
新しめのその墓石の前には、酒瓶が数本備えられている。

「この人?」
「…うん。僕の、父親代わり…だった人」

言ってルシーダは瞳を伏せ、花束をそっと置いた。
…雰囲気で分かる。大事な、人だったんだろう。

「……」

慰めるのも何か変だし、何となく次の言葉が言い辛くて、ボクはその場に立ち尽くす。
なにも持ってこなかった事に今更後悔するけど…後の祭りだ。

「何事にも厳しい人だった…でも、生きる宛の無かった僕に、生きていく術を教えてくれた。
 あの頃の僕には、なにも理解できなかったけど…今では感謝もしてるんだ。
 …最後に、僕の背を押してくれた事。
 自分が死ぬの分かってて…でも、お前はここを出て生きろって、そう言ってくれた。
 だから今、僕は君と、此処に居られるんだ。"店長"の一言が無かったら…今頃は」
「…ボクはあの時、死んでたかもしれない?」
「それは僕の方も。…最も、アジトと一緒くたに、消されてただろうけど」
「……。
 この人は、キミと、ボク、二人の命の恩人なんだね」
「…うん」

ボクも墓前にしゃがみ込み、手を合わせる。

「えと…、エミーナ・ミュールって言います。ルシーダの、…ティルの姉、です。
 妹と、ボクの命を救ってくれて…うぅん。
 巡り会わせてくれて、ありがとうございました。
 妹の事、ボクの事…もし良かったら、見守っていて下さい」
「…!っ」
「…うわ…っ」

突然襲いくる突風。
乱暴に頭を撫でるかの様に、二人の髪をワヤクチャにしたその突風は…唐突に収まる。

「…ありがとう、"店長"」
「ん、何か言った?」
「…ぅうん。何でもないよ、姉さん」

髪を掻き上げ、こちらに振り向いたルシーダは…憑き物が落ちたかの様な、晴れやかな笑顔を浮かべたのだった。