:XDay -2h00m "ウゴキダスジカン" 
 
 
Cross Point



 



部屋に戻ったボクは、自分の机においてある端末の電源をONにして、早速情報の洗い出しに入った。

「…」

データが全部コピーされたことを確認して、はやる気持ちを抑えて検索キーを入力し、Enterキーを押す。
瞬く間に検索が終わり、画面に表示が―出た。

―該当、1件。
日付は…0085年、6月12日。

「やっぱり、85年、か…」

恐る恐る、1ページずつ目を通す。
そして、4面を見た時だった。

―遺伝子界の権威、失踪―

大きな見出しと…紅い壁紙の写真―。
それが目に入った瞬間だった。

「…ぁ」

唐突に…本当に唐突に記憶が、鮮明に脳裏に蘇っていく。
ボクの瞳は…既に画面を見ていなかった。
ボクが見ていたのは―

「…ぁ…あぁ…」

紅い部屋。
紅い人影。
そして…。

「…ぃ…ゃ…いや…ぁ」

「あの時」の恐怖と、痛みが全てぶり返す。
身体の震えが止まらない…視界が狭窄して…。
頭を振っても、目を閉じても…それを拭うことは出来なくて。

「ぃ…やぁ…」

ボクは。

「いやぁぁああぁぁあぁぁああああっ!!?」

全てを、思い出していた。
今まで忘れていたこと、全部。

「やだ、やぁっ?!いやあぁああっ!!」

どんなことをしても、あの時の恐怖からは逃げられない。
しーちゃんを…おかあさんを、おとうさんを…まもることもできなくて。
ぼくはなぐられたいたみでいっぽもうごけなくて。がたがたとふるえてばかりで…。

こんな…こんな苦しい思いをするのなら、思い出さない方がよかった、と。
絶叫しながら、心の片隅に、僅かに残った冷静な部分が告げる。
でもこれは…紛れもなくボク自身の記憶。
その自身の記憶に、ボクの全てが傷つけられ、なぶられ、壊され。

(逃げられ…ない)

やがて、追い詰められたボクの胸中に沸き上がった感情。
それは…

(全部…無くなっちゃえ…そう、全部無くなっちゃえ!)

純粋な、破壊の衝動。
ボク自身居なくなれば、もうこんな思いなんかしなくてすむ。
もう…嫌だ。痛いのも、苦しいのも…寒い、のも。

「エミーナ!」
「!?っやぁっ!」

誰かに腕を捕まれ、止められる。
逃げる事すら許されないのかと、無我夢中でボクは身体をよじる。

「…すまんっ」
「…!!」

抱きとめられ、唇に暖かい感覚。
涙で滲んだ視界の先にいたのは…
血にまみれた、嫌らしい笑みを浮かべる紅いキャストではなく。

「…ぃる、兄」

最愛の、人、だった。
それ、なのに…。