1st Night
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―5日前、都市型コロニー"エルグランド"内、マンション"レ・サン・デ・ポエ"―


「…匿名の依頼? 内容は調査で、報酬は…5万メセタ!?」

暇に任せてハンターズ・ギルドのホームページで、仕事を探していたガレスはその仕事を見つけていぶかしんだ。
胡散臭いとしか言い様も無い依頼内容だが、実家からの支援を受けない苦学生のガレスにとっては魅力的な報酬額である。

「とりあえず、詳細情報を求む…と。どうせ返って来ないか。」

そのまま、コーヒー・メーカーから出涸らしコーヒーを汲み、愛用のマグカップからコーヒーを煽る。
その時、パソコンのメール着信を知らせるランプが反応した。こぼさない様にマグカップを置くと慌ててメールソフトを起動する。

「….差出人は、ギルド本部?」

内容は簡単だった。
―この依頼の詳細については、依頼を受ける意思を表明した者にのみ、ギルド本部で依頼人が直接あって説明する。
― ただそれだけが書いているメールだった。


―4日前、惑星コーラル ハンターズ・ギルド本部内特殊面会室―


「こんな形で、再会とはな、ガレス。」
「ええ、本当に、・・・長兄殿。」

胡散臭さに釣られて依頼を了承してギルド本部に出向いてあった人物は、世の中でもっとも苦手な人物―実の長兄―だったので、ガレスは思い切って苦虫を潰したような顔で相手を睨みつけた。

「まあ、そう言うな。私としては身内が仕事を受けてくれるのならその方が楽だ、と思っている。」

目の前の人物―オークニー財閥総帥 ガウェイン=オークニー―はガレスの気持ちを知ってかどうかは判らないが穏やかな表情で仕事の話を切り出してきた。

「それは、後始末が楽だって事ですか?」
「…相変わらず、手厳しいな。その前に、この部屋の機密性は?」
「少なくとも、実家で顔を合わせて話し合うよりはましなレベルですよ。」

ガレスの下手なジョークに苦笑いをすると、ガウェインは数枚の書類と写真を取り出し、ガレスに渡した。
眉をひそめながら書類と写真に目を通すガレスを確認すると、ガウェインは言葉を続けた。

「…YrE-504、別名"アナザドライブ"。元はオークニー財閥系列の製薬会社が鎮痛剤の一種として作成した奴だ。
 ハンターズでもいくつかこのネタは知っているだろう?」
「ええ、あまりにも副作用がヤバすぎるので研究を中止したら、データ毎、軍産複合体にスタッフを引っこ抜かれた、って話でしたっけ。」

書類から目を離しガレスが言葉を続けるのを確認すると、ガウェインは頷いて言葉を続けた。

「その後は、知っての通りだ。結局、ただのドラッグに成り下がって裏に流れ、開発スタッフは責任を取って自殺、という形で終わったが…。」
「実際はそうじゃない、と?」
「そうだ。」

ガウェインはうなずくと書類のページをめくるように目で促した。
ガレスが次ページをめくり、眉を跳ね上げるのを確認すると、ガウェインは吐き捨てるように言葉を発した。

「同会社内での開発は続いていた。…但し、別の目的の為だ。」
「…コンバット・ドラッグへの進化?それならアッパー系の方がいいのでは?」
「いや、正確には民俗学の話らしいが…なんでもシャーマニズムの"神降し"とやらに使うらしいのだが、門外漢の私には五里霧中の話だ。」
「…それで、今回の事件でオークニーが出張る理由と言うのは、これですか。」

不愉快そうに書類に貼り付けられた写真―警察の押収品と思われる"製薬会社のエンブレム入り"アナザドライブのケース―を指すガレス。

「そうだ。製薬会社の内部査察を行っても一向に調査が進まない上、責任者が"自殺"したんでな。」
「自殺ねぇ…。」

兄の言葉に何か引っかかるような気がしたがガレスはあえて突っ込まなかった。

「そんな時に、ストリートの噂で"アナザドライブが格安で出回っている"と言うのをこちらの警備部門が捉えたのだ。」
「…財閥としては、企業イメージの関係上、証拠の確認と揉み消しを行いたいし、かといって企業軍を派手に投入するわけにも行かない。そこで我々ハンターズのような切り捨てが可能なフリーランスを雇う、と言うわけですか。」

一瞬、室温が10度程下がるような兄弟間の視線の絡み合いが見られたが、数秒でガウェインが折れた。

「…そう、いじめないでくれガレス。今回の被害者はこっちオークニー財閥なんだ。頼む。真相の究明を手伝ってくれ。」

それだけを言うとガウェインは頭を下げた。プライドの高い長兄に頭を下げられ、ガレスは溜息をつきながら答えた。

「…判りました。引き受けますよ。但し、条件があります。」
「条件?」

頭を上げ、弟の顔を見たガウェインは反射的に答えた。

「はい、製薬会社に正規にアクセスする為のID―できれば重役クラスのもの―を貸して下さい。
 この書類や写真だけでは情報が少なすぎます。もう少し細やかな情報が必要です。後―」

そこまで言うとガレスは写真―"製薬会社のエンブレム入り"アナザドライブのケースの写った物―を取り出した。

「これが発見された場所の情報が欲しいですね。」


 


 
 
1st Night
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