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ファイル3:変革/Trans








「それで、結局クーナの協力は取り付けることが出来たんじゃろ?」

「それはできたけど、今のクーナちゃんのままじゃ駄目だわ。アークスをリブートさせることなんてできないよ」

サクサクとタルトをつまみにしながら経緯を説明するチャコさん。なお、グラスの方はもう3杯目だ。
赤虎が首を捻って質問をする。

「でもクーナがそうなった原因ってなんだ? クーナは目的果たして万々歳じゃないか」

「それが、最初に言った燃え尽き症候群よ。可愛い弟:ハドレッドきゅんとの別れは済ませた。とっても哀しいけどこの落とし前はルーサーにつけさせないといけない。
 そう考えて命令聞くフリしながら、ルーサーの寝首かくことを虎視耽々と狙ってた娘だよ? ルーサーがあんな死に方をしたせいで宙ぶらりんになったんだ。心がね」

僕の左肩でゼンチが震えた。クーナに殺されるところでも想像したのだろう。

「燃え尽きたなら、薪を変えて火をくべないといけませんね!!」

「目的を変えるってことか。いいかもしれないね」

枯葉さんの案に賛同する。
クーナは僕とゼンチにとって頭の痛い問題だが、ここで目的を変えさせるのは賛成だ。
でなければ、ゼンチの存在がバレた瞬間にどうなるか分かったものじゃない。
燻っていた薪から出火して大火事なんて真っ平ごめんである。

「……んー、でもあたいこさんの話でいうならクーナちゃんは薪を後生大事に抱え込むタイプだよ。薪を捨てさせたり、新しい薪をくべることが出来るのはクーナちゃん自身かハドレッドきゅんくらいしかいない」

「俺たち、クーナにとっては赤の他人だしなぁ……」

オタさんの言葉で沈黙が訪れる。クーナの心を変えさせるのはとても難しそうだ。
たまらず僕は後ろに声を掛けた。

「おい、ゼンチ! なにかアイデアないか?」

「フン、人の心を操りたいなら外堀から埋めるんだね。クーナの心の頼りがハドレッドなら、ハドレッドに薪を変えさせればいい」

「相手は死んでるんだぞ?」

「死人に口なし。いくらでも遺言をでっちあげれるじゃないか?」

途端に、全員の冷たい視線がゼンチに降りかかる。顔を背けるようにゼンチはくるっと回った。
重苦しい沈黙がさらに重圧を増した。


仕方がない。話題を変えよう。
他にもモノリス接触者でゼンチを知っている人が一名いるのだ。

「……エミナさんの意見も聞きたいね」

「あー。そうだね。あの子もお姉ちゃんだしね。いい意見が出るかも」

「それ、初耳ですよ!?」

チャコさんが言った途端、枯葉さんが食いついた。僕も初耳だ。

「弟さんですか? もしかしてもしかすると妹ちゃんですか!?」

「あたいこさんは相変わらずじゃのう……」

「妹ー。実妹じゃなくて義理の妹らしいよ。名前はサフラン。褐色銀髪のかわいい子なの。つくねが小悪魔系だとするとサフランは子犬系」

「わんちゃん!? ぜひお会いしたい!! 早速、えみなさんに連絡とりましょう!」

枯葉さんの黄色い声が響き渡る。

「なあ、リバー。彼女は何故あんなに興奮しているんだ?」

「ゼンチ……世の中には知らない方がいいこともあるんだ……」

僕とゼンチが喋っている間に、チャコさんがエミナさんに通話を開始していた。
WISなど必要ないとばかりに、ホログラムウィンドウによるカットイン通信を開いている。

「鯖味噌、聞こえるー? あのさ、あたいこさんちに……」

『チャッ……チャコ姐っ! 助けて! サフランがっ!』

カットインに映ったエミナさんの顔は、焦燥に満ち溢れていた。



 

 

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