陽気。快活。歓喜。
サフランの花言葉である。
そう名付けられたサフランも陽気なところが取り柄のアークスだ。
だから、こんな事態でもまだ笑っていられる。
艶やかな銀髪に褐色の肌をした少女は、そうあろうとした。
「あはは、ははっ……はぁ……」
いや、やっぱり無理! そうかぶりを振った。笑いは2秒と続かず、嘆息へと変わる。
自分が乗っているキャンプシップが今まさに溶岩流に飲まれているのだ。
船が盛大に壊れたのは、惑星アムドゥスキアの周回軌道上だ。
惑星に降下する前は、船に探索地点の検出とマッピングを行わせるのが常である。
音速の何倍もの速度で移動しながら惑星を上から観察するのだが、まさかその時にスペースデブリに接触するとは思ってもいなかった。
本来は船に接近するデブリを検出するための高感度センサーとデブリを破砕するためのレーザー発振器が機能するのだが、作動していなかったらしい。
ものすごい音と衝撃が船を襲い、重力発生装置が故障し、サフランの身体が宙を舞った。
挙句に、けたたましいアラームが鳴り響き、船内が赤い非常灯で照らされる。
何故こんなに焦らせるような演出をするんだとサフランは憤ったが、そんな暇もないくらい緊急着地シーケンスに忙殺されることになったのだ。
「その結果が、これだもんなー……」
努力はした。
浮遊大陸を浮かしている浮力を利用しようと無い頭を捻ったり、牽引用フックランチャーを岩盤に突き立てて速度を減衰させたり、正面じゃなく斜めから谷にぶつかったりして、船の外壁と谷を削りながら落ちた。
落ちた先が溶岩だというのは不運というほかない。
いまや船の船底は真っ赤になって溶解しつつある。
運が良かったことは一つだけある。
姉からのWISだ。一度だけ繋がり、こちらが大変な事態になっていることは伝わった。
ただ、そのあとにいくら掛けなおしても繋がらなかったが。
WISが伝達できない、というのはキャンプシップの不具合とは別に原因がある。
考えられるのは通信衛星が破壊されている場合だ。
フォトン通信は強力でラグをほとんど感じさせず数光年の距離間での通信を可能とする。
一方で、それだけ強力なフォトンは個人では出力できない。いや、正確には出来る者もいるがあまりにも消耗が激しくなる。
そのため、各惑星では通信用フォトンを増幅するためのアンプを通信衛星として飛ばしているのだ。
それが壊れた為にWISが通じないのではないか、というのがサフランの予測である。
運が悪いことは現在進行形で進行中だ。
サフランは恐る恐るキャンプシップの中から外を見た。
「ふ、増えてるっ……!」
キャンプシップの周りには沢山の龍族がいた。取り囲むようにして騒いでいる。数はざっと見て30匹ほど。
アークスシップとのリンクは切れていて敵のレベルは分からない。
流石のサフランと言えど、この状況には恐怖した。なにせまだ彼女はレベル20程度なのだ。
「はやく来てよ、お姉ー!!」
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