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ファイル3:変革/Trans









「……というわけで、妹のキャンプシップが不調な状態らしくて、居てもたっても居られず……すいませんでした」

「ちょっとは落ち着いた? 通信関係の整備不良かもしれないし、そこまで過保護にならなくてもいいと思うよ」

エミナさんは頷いて紅茶に口をつける。
半パニック状態のエミナさんを宥めるのにはかなりの苦労を強いられた。
しかし、意外にも決め手となったのは枯葉さんが差し出した紅茶である。
にこやかに渡すものだから無下に断ることもできず、熱いのでゆっくり飲むことになる。
すると紅茶の柔らかな匂いも相まって気分が落ち着くのだ。

「サフランちゃんのキャンプシップの件もそうだけど、ゲート一時閉鎖なんてとんでもない異常事態だなぁ」

「あれ? ごろーちゃん知らなかったのか。2日前から夜間は閉鎖になったぜ」

もしかして知らないのは僕とエミナさんだけだろうか? そう思い皆の顔を見る。

「あたし知らなかった」「私もです!」「わしもじゃ」「俺も知らねえ!」「いうまでもなくボクも……」

「ふーむ。ま、皆最近は任務にいってないしな。ちなみに理由は整備員のストライキ。あいつらの要求はアークスの規模縮小らしい」

「規模縮小?」

「なんでわざわざ戦いに赴くんだー。そんなことより格差を無くせー」

棒読みするオタさん。ありありとその光景が目に浮かぶ。
一般人にとってはダーカーと出くわすことはほとんどない。
まれにアークスシップがダーカーに襲われるが、それだってほとんどの一般人にとっては対岸の火事なのだ。


「なんかやばそうってのは分かった。でも、今はサフランのことを考えよう。ね? 鯖味噌」

「……ありがと、チャコ姐。でも、一体どうしたらいいんだろ? 夜間がダメっていうなら、朝まで待つしかないのかな」

現実的な線で言えば協力してくれそうな整備員を探してキャンプシップを出してもらうってところだろうか?
けれど、僕にはそんな知り合いはいない。皆も同じなのか腕を組んだり、首を傾げて悩んでいる。
しばらくして、ぽん! と赤虎が手を叩いた。

「なぁなぁ! チームルームを使えばいいんじゃないか?」

「そう言えば今わたしたちのチームルームってオラクル船団から出ていきっぱなしでしたっけ」

「うむ、開拓巡航中のはずじゃ。アレは確か、5年以上無補給での航海が可能なんじゃろ?」

つくねの言う通り、僕らのチームルームは開拓巡航/フロンティア・クルージングと呼ばれる機動中だ。
手の空いているチームルームはこうして未知宙域に向けて移動をする。
これには、有用な惑星を見つけるためだったり、ダーカーの巣を見つけるためだったり、様々な理由がある。
大体、いくら船団から離れてもテレポートをすれば個人ずつでも船ごとでもオラクルに戻ってこれるのだ。
暇があれば開拓巡航をするよう各チームは言われている。

ともかく、キャンプシップよりよほど巨大な船を僕らは持っていたわけだ。
皆で顔を見合わせ、一斉に頷く。

「「よし、いこう!」」

飛び上がって。エミナさんが一目散にテレポーターに駆け込んだ。
チームメンバーのマイルームとチームルームはテレポーターによって直通移動が可能だ。
彼女を追いかけるようにして、僕らは枯葉さんの家の玄関に向かう。


テレポート。


やはり光のトンネルはさほど長くない。テレポーターの利用者が少ないせいだろう。
瞼を開けると、僕はチームルームにいた。
無事にチームルームに7人と1匹の転送が完了している。

天井から吊るされた3機のモニターをチェックすると、航路図が展開されていた。
やはりチームルームは開拓巡航中のようだ。
乗っている僕らには実感が湧かないが、ここは亜光速で移動をしている。
ウォパル恒星系から脱出し、まだ見ぬ新天地へ向けて。青白いプラズマ炎を吐き出しながら。


「でも、これどうやって操作するんだい?」

「確かボスはトゥリアに聞いたって言ってたのじゃ。マネージャー以上の権限のある者であれば決定権があるじゃろ」

僕の質問につくねが答えた。
それを聞いてチャコさんが中央のお立ち台に立った。いかにも司令官が演説をしそうな台だ。
右手を高らかに掲げ、トゥリアの持ち場であるカウンターを見る。

「よーし! トゥリアきこえてるぅー!?」

「……そんなに煩くしないでも、聞こえてるわよ……」

いつも通りのダウナーな声でトゥリアが返答した。
オタさんはあの声にぞっこんらしいが、正直かなり人を選ぶと思う。
事実、トゥリアは(仮)が拾わなければこの仕事を辞めるつもりだったらしい。それだけ他のアークスからは相手にされていなかった。
だから、ぶっきらぼうに見えてもトゥリアなりに恩義を感じて尽くしてくれている。

「じゃあ、トゥリア。これから鯖味噌の妹を助けにいくからチームルーム、もとい宇宙船(仮)号を発進させてほしいの」

「……なら、行きたい場所を指定して……ついでに音頭もとって……めんどいから……」

「おっけー! 目標は惑星アムドゥスキア周回軌道! 宇宙船(仮)号発進せよ!」

「………あいあいまむ………」

雄々しい宣言に対し、トゥリアは変わらず間延びした声で応じた。
手元のコンソールを操作する。口に反してタイピング速度や仕事の処理速度は恐ろしく速い。

まず、現在位置の座標がセーブされる。首尾よく任務が終了したらここに帰ってくるためだ。
次に、船首にマウントされたゲート生成装置が起動。
青白い光線が収束し、前方に照射された。
まるでレーザーメスが黒い画用紙に穴を開けるように、何もない空間に光の輪/ゲートが展開される。

「……ゲート、展開するよ。……総員テレポート酔いに注意してね……」

トゥリアのオペレートはゆっくりすぎる。
喋り終わる前に(仮)号はゲートの展開を終えていて、次の瞬間には巨大な光のトンネルに突っ込んだ。



 

 

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