ファイル3:変革/Trans
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エミーナらがサフラン捜索を行っている一方で、ルチルはフォラータと共にへとへとになりながら日課の報告に向かっていた。 「うぁぁあああ……。きついよぅ。死んじゃうよう」 「報告するまでがTAです。ほら、しっかり歩いて」 「ほらたんはつらくないの!? 4回もやってるじゃん!」 「あなたは7回じゃないですか……。いくらなんでもやり過ぎですよ」 言い合いながら階段を昇るうちに依頼人の姿が見えてくる。 「そんなにきついなら無理してやらなくてもいいと思うんだけどねえ?」 そう笑いながらクロトは言った。 「! TA終わりました! お金ちょうだい!」 「チルさん……もうちょっと礼節に気を使ったほうが……。クロトさん、いつもすいません……」 「いいのいいの。TAおつかれさま。確かに記録をいただいたよ。これ約束のメセタね。二人の口座に送金しておくから」 二人の常連とのいつもの会話。もはや儀式のようなものだ。 「ところで、君たちはその稼いだメセタをどうするんだい?」 「クロトさんの口からそんな質問をされたのは初めてですね。……そうですね。私は武器や防具を取りそろえたいと思っています」 「ごはん! 服! 武器! 防具! いっぱい!!」 「うんうん、いっぱい買うものがあるんだねえ。それはとても良いことだよ。今は色々なものが安くなってるからいっぱい買うといい」 「! え! やすいの!?」 「そういえば、マイショップの価格帯が異様に安くなっていますね」 マイショップというのは、アークスが利用する売買システムのことである。 フォラータが言うように、マイショップで販売される商品の値段が安くなっている。 「あの事件の影響だよ。アークスがメセタを稼がないからデフレになってるんだ。その点君らはたくさん稼いでえらいねえ」 「クロトさんこそ、よくそんなにメセタを持っていますね。やっぱりマイショップ富豪なんですか?」 「きっとどこかのエージェント!!」 「ははは、ご想像にお任せするよ。じゃあ、僕はこれで。友人と約束があるんだ」 クロトは二人の追及を適当にはぐらかした。不用心に喋りすぎたと心の中で反省する。 「! クロトはぼっちじゃなかった!?」 「コラッ! なんかホントすいません、クロトさん。では私たちはこれで」 「あはは、また明日ね」 友人と約束があると言うのは事実だ。もっとも、時間指定はされていない。いまごろ既に饗宴は始まっているだろう。 (惜しいなぁ。どこかのエージェントというのは正解だよ) しかし、いくらなんでも絞りが甘すぎる。当てずっぽうで当たっただけでは手放しで賞賛をすることはできない。 クロトが常に着用しているゴーグルには様々な情報がグラフ表示されている。主に注視しているのはマイショップ内の相場状況だ。 (アークス本部はACの普及に失敗しちゃってるしね。ねえ、ウルクちゃんこれどうするの?) 答えるものはいない。 (仮) 愛用のゴーグルを通して金の流れを見ればうっすらとその名が見えてくる。 (彼女らは信じているんだ。アークスの復活を) 現在のデフレの実態は、アークスが働かないというだけではない。当のアークスたちがアークスでいることに迷いを見せているからだ。 しかし、(仮)はこのデフレの中で買いを行う。つまり本部から、ウルクから、何かを伝えられたのだ。 いや、ひょっとしたら。 「(仮)が復活させる、なんてねー」
コン、コンコン、コン 「入りたまえ」 失礼しまーす、とクロトが入ると、そこにはパーティルームが広がっていた。 来場者はさまざま……ロビーエリアやショップエリアで勤務する本部職員、アークス、著名な研究員、市街地の富豪など。 「やぁ、ドゥドゥさん。遅れちゃってごめんねー」 「フッフッフ。クロト君は仕事だったのだろう? 仕方ないさ。君にはなんとかこのデフレを止めて欲しいからな。安定してメセタを流せる君が頼りなんだ」 「悪いけど、期待とは裏腹にTAを受けてくれるアークスも少なくなってきちゃってさぁ」 ここにいる者たちに本部職員はいるがそれが本部を動かせるわけではない。この会合はあくまで非公式のものだ。 元はドゥドゥが作り上げた金融ネットワークだ。 クロトはギルドに所属するアークスである。 「それよりドゥドゥさん。耳寄りな情報があるよ」 「ほう、何かな?」 「(仮)ってチームを知っているかい?」 こうして(仮)の与り知らぬところで(仮)の名前は広がっていく。
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