| |
ファイル3:変革/Trans










宇宙船(仮)号がアムドゥスキア軌道上に到着して、最初に行ったのはドローンとのリンクである。
アークスが探査をする際、キャンプシップでまず上空から探査区域の検出を行うが、その際に無人機を排出する。これがドローンだ。
このドローンにはマッピングシステムやコンテナ投下装置、リカバリーポットなどが積み込まれており、独自にアークスを支援する。

もっとも、昨今では数日も持たずにダーカーに襲われ宇宙のデブリとして漂う運命にある。
だが、サフランちゃんが来たのは今日だ。

「つまり! たとえキャンプシップが故障したとしてもドローンは生きているはずです!」

どやっ、とウインクしながら言う枯葉さんの弁を信じてこの作戦を行ったのが10分前。
今か今かと待ちわびるエミナさんの耳にトゥリアからの報告が入った。

「……発見したよ……航路パターンから言って、サフランの船……から出たドローン……で間違いない……」

「でかしたトゥリア!」

「それでサフランは!?」

褒めるチャコさん、食って掛かるエミナさんに、トゥリアが眉を顰めた。彼女がそんな顔をするのも珍しい。エミナさんが慌てて取り繕う。

「ご、ごめんトゥリア……!」

「……違う……落ち着いて、聞いて……幸運なことにドローンから本体の経路が送られてきた……本体……つまりサフランの乗った船は……デブリの直撃を受けて墜落……」

そこまで言った瞬間、エミナさんの顔が真っ青になり膝から落ちた。
慌ててオタさんと赤虎が支える。

「お、おい鯖味噌! 落ち着けって!」

「オイ、トゥリア。まだ続きあるだろ?」

「……うん、ごめんなさい……あたし……こんなんだから……うまく話せなくて……」

「そういうの後でいいのじゃ!? はよう!」

「ええと……サフランの乗った船は……アムドゥスキア火山地帯に突入、不時着成功……してる」

途端に、エミナさんの目に光が戻る。チャコさんもほっと胸をなでおろしていた。

「VTR……見る……?」

「見る!」


ホロヴィジョンに移されたVTR映像はそれはもう散々なものだった。

無音の宇宙空間。キャンプシップの前面で火花が散る。
緩やかなきりもみ回転をしながらゆっくりと惑星に落ちていく船。
否、ゆっくりと見えるだけで音速の何倍もの速度が出ている。
アムドゥスキア大気圏へ突入。赤熱化する外壁。
ここでシールド装置が稼働。同時に片方のスラスターが断続的に点火され、きりもみ回転を打ち消す。
おそらく、サフランちゃんの機転。

「鯖味噌の妹なかなかやるじゃん?」

ドローンから離れていく船を、ドローンはズームアップを繰り返すことで視認を継続している。
キャンプシップは大気圏内に入り、大きな地図を斜めにカットするように高速で落下。
雲や浮遊大陸という比較対象が現れたことでその速度がどれだけ速いかわかる。秒速1kmといったところか。
船はさらに落下。船の先には緑の大地、浮遊大陸が浮かんでいる。

「ああっ! 危ない!」

あわや浮遊大陸にぶつかりそうになる場面がいくつもあり、それらの悉くを飛び越え、避け、あるいは潜っていく。
途中、船から黒い線が飛び出し、船体が急激に斜めになった。

「今のはなんじゃ?」

「ワイヤーフックだ。減速に使ったのだろうが、そんなもので耐えきれるものか」

バランスを崩したまま火山地帯へ。再度、断続的スラスター。しかし、バランス取れず。
アムドゥスキアの火山地帯は針の山のようになっている。滑走路のようなものはどこにもない。
ついに、谷にぶつかる。しかし、正面衝突ではない。極力浅い進入角度。
船を包むように赤い煙が見える。衝突時に岩盤が削れているのだろう。船の外壁も。
谷には溶岩が流れている。途中でその支流に船は乗った。
ウォータースライダーのようにして溶岩の飛沫を飛ばしながら流れていく。
行きつく先は地面。溶岩溜まりに入って、船はようやくゆっくりと止まった。

「ハラハラしましたね……! あっ、なんかいっぱい来ましたよ!?」

キャンプシップを取り囲む人型龍族。しばらくして、キャンプシップから小柄な人影が出てきた。
銀髪の褐色少女。サフラン。足取りは緊張したものだが、足を引きずるような動作はない。五体満足だ。
龍族らに囲まれたまま、サフランちゃんは歩いていく。やがて、浮遊大陸の死角へと入り、認識ができなくなった。

VTRが流れる間、エミナさんは一言も発さなかった。
場に沈黙が漂う。沈黙を破ったのはチャコさんだ。

「ま、まぁ、とりあえずVTR見る限りじゃすぐに死にそうじゃないし、場所は分かっただけいいじゃない? 鯖味噌も落ち込んでないで早めに追いかけよ」

「……うん、そうだね。あれだけの大立ち回りして生きてるんだもの。サフランは大丈夫」

言い聞かせるようにしてつぶやいているエミナさん。なんとか、目から光は失われずにすんでいる。
僕はトゥリアの方を向いた。

「ってことは、降下か。トゥリア、テレポーターの準備を頼むよ」

「……? そんなもの……ない……。降下するなら……船ごと降りる……」

どうやらチームルームに投下型テレポーターはないらしい。
聞き出すと、ウォパルでヨシオさんがわざわざ船に乗ってきたのもそういう理由によるものだった。

「領空侵犯とか大丈夫か?」

オタさんが不安そうに呟いた。言われてみれば浮遊大陸を横切るときにトラブルになるかもしれない。

「でも、ここで手をこまねいているわけにもいかないでしょ。降りるよ。トゥリア! 惑星アムドゥスキアに着陸開始!」

「……あい、まむ……どうなってもしらないからね……」

(仮)号は着陸シークエンスへ。
吊り下げ型モニターに惑星と(仮)号の相対位置が表示、推奨航路が示される。
ゆっくりと(仮)号のスラスターが向きを変え、航路をなぞり始めた。



 

 

| |