ファイル3:変革/Trans
|
もう何度目になるだろう。WISの送信は相も変わらず失敗している。 〔何をしている?〕〔小さきアークス〕 「小さいは余計だってば! ……通信をしてるんだけど繋がらないの」 〔そなたたちの念話か〕〔今は無理だろう〕 「無理? 原因が分かってるの!?」 サフランが会話をしている相手は普通のディーニアンとは違っていた。 龍族に囲まれた時、話かけてきたのが彼だった。どうやらアークスを目の敵にしているわけではないようだ。 〔元はと言えば〕〔アークスに因果がある〕 「あたしたちのせい?」 〔人の造りし龍が現れ〕〔ダーカーを蒔いた〕〔ダーカーはアークスの小星を壊している〕 「小星……って衛星のことだよね。やっぱりそうだったんだ。でも人の造りし龍っていうのは、わからないな」 〔そんなはずはない〕〔小さきアークスよ〕〔そなたはその龍の系譜〕 何を言っているんだろう? 自分が龍というのはどういう事か、とサフランは頭を掻いた。 そうだ。きっとデューマンのことだ。 自分にデューマンだと一目で分かるような要素はないはずだ。少なくともサフランはそう自信を持っていた。 別にデューマンであることが嫌なのではない。姉のエミーナがニューマンなので自身もそうなりたかっただけ。 「ええと、じゃあ暴れているのはデューマンなんだね!」 アークスなのにアークスの妨害をするなんて、なんて奴だ! とサフランは憤る。 〔………〕〔やはりアークスとの対話は〕〔難しい〕〔小さきアークスよ〕〔会って欲しいアークスがいる〕 「だから小さいは余計! サフランって呼んでよ。で、そのアークスってのがデューマン? それともそのデューマンの知り合いかな」 〔失礼したサフラン〕〔どちらも違う〕〔アキという研究者だ〕 どうやら、ヒ・エンの態度から察するに敵意を向けるべき相手ではなさそうだ。
「そう言えばヒ・エン。話は変わるけどさ。あたしが怖くなかった?」 ヒ・エンの説得に応じ、キャンプシップから渋々出る時のことだ。 〔恐怖は抱かない〕〔ヒは賢き部族ゆえに〕〔それにサフランは他のアークスとは反応が違った〕 「ん……どこが違った?」 〔アキに似ている〕〔瞳の焦点が合っていた〕〔対話をしようというアークスの特徴だ〕 「あはっ。違うんだよ。ヒ・エン。あたしは対話をしようとしたんじゃない。……出来ないの」 〔どういう意味だ〕〔何が出来ない?〕 「瞳の焦点が合ってないっていうのはね、アークスは戦闘態勢に入るとフォトン知覚をしているからなんだ。でもあたしには……フォトン知覚がよくわからない」 それは、アークスに憧れるサフランにとって大きな問題だった。 人一倍の努力でレベル20にまでなれた。 〔それは悪いことなのか?〕 「へっ?」 〔己の弱きところを知り、補う〕〔それは強き者の定め〕〔克服するにせよ〕〔受け入れるにせよ〕〔サフランは己の弱きところを解している〕〔それは良いことだ〕 「なあに、ヒ・エン。元気付けてくれてるの?」 〔?〕〔我らの理を説いたまで〕〔それより〕〔そろそろアキの住処だ〕
〔お客様だ!〕〔こんにちわ!〕 頭の中に響く龍族特有のテレパシー。 「ああ、大丈夫かい、キミ? 彼女はまだ私たちの挨拶に慣れていないんだ」 サフランを心配するように語り掛けたのは黒髪をミディアムレイヤーでまとめたヒューマンの女性だ。彼女がアキだろう。 〔びっくりさせたか?〕〔ごめんなさい!〕 再度の咆哮。ちょっぴり怖いがどうやら敵意はないらしい。 「あたしはサフラン。サフラン・アクセリア……です。キャンプシップが故障してしまって、この星に不時着しました」 「そうか、それは災難だったね、サフラン君。私は研究者のアキ。彼女はコ族のレラ君だ」 〔サフランか〕〔良い名前だ!〕〔よろしくね!〕 テレパシーから伝わる精神年齢から察するに、コ・レラは見た目に反して幼いのだろう。もしかしたら自分と同じくらいかもしれない。 「はじめまして、よろしくね!」
|