ファイル3:変革/Trans
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「ゼンチ。なんでこれ浮いてるか知ってるか?」 「分かりやすく言ってしまえば、特殊な磁場によるものだよ。アムドゥスキアの大地には磁性を帯びる鉱物が多量に含まれている」 「それって人体に有害じゃないのか」 「生身ならね」 アークスは放射線だろうが汚染大気だろうがさほどの影響はない。この星に住む龍族は当然適応しているのだろう。 「おい! あれって死体じゃないか!?」 物騒な単語だ。目を向けるとその浮遊大陸には龍族の死体があちらこちらにある。人型から飛行型まで様々。 「レーダー!」 チャコさんがトゥリアに報告を求める。トゥリアはすでに周囲を解析しはじめていた。 「……ダーカー反応……! テレポート……くる……!」 テレポートはアークスの専売特許ではない。むしろテレポートの技術に関していえばダーカーの方が一枚上手だ。 「も、もしやすると船内に直接来たりするかの?」 「いいえ! テレポーターの近くには転移できないって昔習いました!」 枯葉さんの言う通りだ。チームルーム、もとい(仮)号にはテレポーター投下装置はないがテレポーターはある。 ならテレポーターだらけにすればダーカーからの防衛なんて簡単じゃないかと思うのだが、コストやら環境に与える影響やらで出来ないらしい。
「おお、見事に空中戦だ!」 「ワクワクしてるとこ悪いけどオタ。あいつらは無視するよ。対空装備なんてチームルームにはないしね」 (仮)号はその黒い雲に正面から突っ込んでいった。こちらの前面装甲は硬い。 「せやな。早いとこサフラン回収すべきだもんな」 素直に下がるオタさん。しかし、手には愛用のランチャー:フレイムバレットを取り出している。 「でも、いやな予感はするからハッチの近くにいってるぜ」 オタさんは後部ハッチに向かって歩いていき、安全帯を腰に巻き付けた。靴を重たいマグネットブーツに履き替えている。 「えっ、(仮)号ってかなりの速度で動いてるんですよね? 遠距離攻撃でもされてるんですか!?」 「いや、そんな攻撃手段さっきのやつらには無かったはず……」 僕は枯葉さんの戸惑う声に答えたが、それならこの音はなんだろう? 「……さっきのブリアーダ……卵植え付けられた……エル・ダガンがしがみ付いてる……後ろはただのハッチで……可動部だから……硬くない……壊れる……」 「振り落せる?」 「……無理……ハッチ穴空くと……宇宙に戻れなくなる……後部ハッチ開けるから……駆除して……」 「オタの予感が当たっちゃったか……」 いや、むしろこれは。 「オタのフラグじゃの」 「えっ、俺のせい!?」
「ひゃっはー!! ゼロ・ディスタンス!」 オタさんがそいつに銃口をあてがい、そのまま引き金を引いた。エル・ダガンの頭部が爆裂する。 「ちょっ、やべっ」 エル・ダガンを侮ってはいけない。同種のダガンよりよほど凶暴で、体躯が大きい。いくつかのエル・ダガンが炎を掻い潜った。 「オタやん危ない!」 それを一瞬早く止めたのはカタナの一撃だった。円状に広がる衝撃波がエル・ダガンの動きを一瞬止める。 「鯖味噌ありがとな! って、もう大丈夫なのか?」 「うん。目の前のこと片づけることしか出来ないから、ボクは。やることが分かってるならやるだけさ」 ひゅう、と口笛を吹くオタさんだが、周囲の状況は未だ芳しくはない。ダーカーの出現はまだ止まっていないのだ。 「リバー。君らには聞こえないか? この咆哮が」 ゼンチが囁いた。咆哮? 「クロニクルを盗み見た時にはまさかと思っていたが、完成していたのか……」
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