ファイル3:変革/Trans
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肺から絞り出すようにしてなんとか声を出した。口の中で鉄の味がしている。内臓系はやられていないから、口内を切っただけだろう。 後部ハッチは開きっぱなしだが、運よく造龍の一撃を逃れたらしい。ゆっくりと閉まるべく稼働をしている。 「状況を説明しようかリバー?」 「ゼンチか……頼む」 「まず、君が意識を失っていたのは20秒ほど。幸運なことに(仮)号はまだ飛んでいる。造龍が破壊したのは船体底面の右舷半重力装置だ。なんで落下しないのか、というのは……」 ゼンチが向いた方向を見ると、意外にもカウンター内にトゥリアが立っていた。 「……くぬぬぬぬ……っ!」 カウンターの内側にあるレバーのようなものを両手で思いっきり引っ張っている。 「とまあ、あのように船を無理やり制御してくれている」 「造龍は?」 「彼なら奈落に落ちていったが……死ぬことはないな。あれは移動速度こそ遅いが、空を飛ぶこともできる。むしろ、次来るときは転移してやってくるだろう」 転移能力とは厄介だ。どうやら、倒すまで安心できないようだ。しかし、僕らはそもそもハドレットに用があったのではなかったか。 「もう一つ。あいつはハドレットのクローンか? なんとか救うことは出来ないか?」 「二つじゃないか。……まず、クローンかどうかは僕は知らない。コンセプトは研究室から上がってきたが、実際に弄りまわす前に僕は保存されたからね。救出方法なんて見当もつかない」 恐らく殺すしかないのだろう。戦いは避けられず、手加減をする余裕もなかった。
「……おい、ゼンチ。エミナさんは?」 「エミーナ嬢ならばオタ少年と一緒に落下したが?」 「早く言えよ!?」 チームルームで誰かがいなくなると良くないことが起こる。そんなジンクスが出来つつあった。 「カタハバー! 足締め付け過ぎで痛えよ!? それに重てえ!」 「ゴ、ゴメンよぉ」 どうやらエミナさんは咄嗟にオタさんの足を掴んだらしい。オタさんもその痛みで気絶しなかったようだ。 「おーい! 二人とも、今引っ張り上げるからちょっとまってて!」 「ごろーちゃんか! すまねえ出来るだけ早く頼む!」 ごろちゃんもゴメンねー、というエミナさんの声を聞きながら、ワイヤーが繋がれたウィンチを稼働させる。
「ごろーさん、やばい! ダーカーっぽい妙な反応が出てる。またアイツが出てくるぞ!」 ここはまだ高空だ。浮遊大陸の大地がまだ200mは下に見える。 しかし、まだ奴の爪も牙もギリギリ届かない。 「……ん……! んん……! 高度が……安定しない……!」 どうやら、無理そうだ。むしろ速度は緩み、ゆっくりと下降していく。方向転換なんてしようものならバランスを崩すに違いない。 ワイヤーの先では、オタさんをよじ登ってエミナさんがワイヤーを掴んでいる。 「クソっ、特製のクラスターバレットでも食らってろ!」 ガシュンッ、という独特の音と共にその特殊弾は発射された。 〔RUOOOOOOON!〕 「チッ、あんま効いてないっぽいな……」 「どうしよう……!」 エミナさんは悔しそうに歯噛みしている。 ごくり、と唾を飲み込む。それに気付いたのはゼンチだけだ。 「君、何を考えてる? まさか……」 「そのまさかだ。(仮)号が無事に着陸して皆が戦える状態になるまで僕が奴を引き付ける」 思考トリガー。 「待たんか、リバー!」 振り返ればつくねがいた。手にはロッドを持っている。 「いくんじゃろ? わしも援護するぞ!」 そう言って、シフタとデバンドを掛けてくれる。僕は身体が強化されるのを感じた。 「助かる。でも、奴に攻撃はしないでくれ。(仮)号に奴の注意が向くとまずい」 「ぬう、わかったのじゃ……」 一度だけ頷いて、僕はハッチから飛び降りた。 落ちる。 吹き付ける風が気持ちいい。 目下では造龍が顎を開いて待ち構えていた。僕を食らうつもりらしい。 誰が食われてたまるか。 「シッ!」 がら空きの顎にストライクガストを当てた。 「こいよ……!」 空でファイティングポーズを取り、僕もガンを飛ばした。ここで無視されれば飛び降りた意味がなくなってしまう。 〔GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!〕 至近距離の咆哮が僕の身体を打つ。挑発は成功のようだ。 その時、悪寒が走った。 咄嗟の回避行動を取る。空中で斜め後方にステップすると、そこを半虫半人の怪物:エル・アーダが突進してきた。 「リバー! あいつには【呼び声】があることを忘れたのか!」 さっきの咆哮か。気づけば、周りには無数のダーカーが展開されていた。 造龍は僕の顔を見て、にやり、と笑った。 誰がただで死んでやるかと思った。 しかし、その爪が到達する前に、僕の視界の端を何かが掠めた。 なんだ、なにが起こった? 矢といえばBr:ブレイバーだ。(仮)号にいたBrは二人。エミナさんと赤虎? 気が付けば、僕の周りのダーカーも絶命している。 そして、僕は見た。
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