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ファイル3:変革/Trans









〔当たったな!〕

「うん! 間に合った!」

喜色ばんで互いに喜ぶコ・レラとサフラン。

(仮)号を見つけたと同時に、後部ハッチから垂れ下がっている姉を視認できた。姉からは気づかれていないと思う。
コ・レラは(仮)号よりはるか上空にいたし、姉のエミーナは後方を見つめていたからだ。
サフランにはその目に覚えがあった。よく自分が見られているからだ。あれは姉が相手を心配しているときにする。

だから、サフランはコ・レラに頼んで(仮)号後方へと飛んだのだ。
案の定、無茶な戦いを挑んでいる人がいた。

ミントブルーの髪の男。
たぶん「ごろーちゃん」だろう。ファッションにこだわりを持っている男友達がいると姉から聞いている。
足には見たことのない武器を装備しているが、一人で造龍とダーカー数十匹を相手にするのはどう見ても分が悪い。
サフランとコ・レラはあらん限りの遠距離攻撃手段をもって戦闘に介入した。

「もういちどアタックするよ! できる?」

〔もちろん!〕

コ・レラは両翼を広げ、減速しつつ急速旋回。造龍を正面に見据える。
翼の関節部の結晶がパキパキと音をたてて隆起し、誘導結晶体と化した。

一方のサフランはすでに手でコ・レラの頭を掴まなくてもバランスを取ることができるようになっていた。
左手で弓を持ち、右手で矢筒から矢を引き抜く。

実のところ、サフランが自然にやっているこの動きは普通のアークスでは出来ない。
ディスクにはクォーツドラゴンに騎乗しながら撃つ、などというニッチな記憶は設定されていないからだ。

サフランはフォトン知覚が出来ず、ディスクに身を委ねても上手く体を動かせなかった。
それでもなんとか同期の候補生と肩を並べようと、PAを見よう見まねで真似てきたのがサフランである。
そういう下地が、PAを状況に合わせて改変するという離れ業を成立させた。
ドラゴンライダーとは、サフランだけに許されたオリジナルと言える。


矢を番えた。

敵、造龍はこちらを憎悪の目で見ている。
アキからハドレットとクーナの話を聞いていたサフランは、なんだか少し哀しくなった。
だが、弓を引く手を止めはしない。サフランはブレイバーなのだ。
機を見て、呼吸を整え、心に迷いを抱かず戦う。故にブレイバー/勇気ある者。

〔射程圏内!〕〔攻撃する?〕

「まだ! もう少し引き付けて…………てっ!!」

掛け声とともに一斉に誘導結晶体が発射。総計24発の結晶弾頭が造龍に降りそそぐ。

サフランも負けてはいない。
躊躇なく矢を連射する。PA:ミリオンストーム。
本来は一か所に留まって矢継ぎ早に矢を射かける戦技だが、クォーツドラゴンに騎乗することで移動と攻撃が両立している。
それどころか、その速力が矢の威力に加わっているらしい。造龍の外殻を貫いた。

アイテムパックの分子アセンブラは嘘みたいに好調だ。
大気中の二酸化炭素を分解し、グラファイト製の矢弾に再構成。一射撃つごとに矢は補充されている。

サフランは50発以上の矢を撃った。造龍を通り過ぎ、振り返って戦果を確認する。

しかし、その無尽蔵とも思える矢と結晶体の攻撃を受けてなお、造龍は健在だった。
身体の至る所から出血をしているにもかかわらず闘争心を失っていない。

〔GUOOOOOOON!!〕

再度の咆哮。しかし、ダーカーを呼んだ直後にしたことは、ダーカーをけしかけるのではなく、その捕食だった。
両手の中に重力球を生み出す。その中にダーカーを押し込み、強靭な顎でダーカーのキチン質の外殻ごと咀嚼している。

「ダーカーを……食べてる?」

〔サフラン!〕〔私尻尾つかまれてる!〕

「へっ?」


造龍に目を向けていたので気づかなかったが、コ・レラの尻尾を掴んでいるものがいた。
ジェットスキーのようにブーツを空中に滑らせながら直立している。
ミントブルーの髪、黒いブリッツエース、赤いマフラー。

「やあ。君がサフランちゃん?」

「ごろー……さんですか?」

「ごろーちゃんでいいよ。さっきはありがとう、助かったよ。と、お礼はこれ位にしておこう。あの造龍はダーカーを捕食して第二形態に変身する。その後は攻撃が激しくなるからね」

見れば、造龍の肉体に黒い翼と鉤爪が構成されていた。腹部が青く発光し、禍々しいフォトンを感じる。
サフランはリバーに尋ねた。

「ごろーちゃん、あいつを倒すにはどうすればいい?」

「まず(仮)号と合流する。さっき連絡があって、無事に着陸できたみたいだ。そこに向かって欲しい」

〔待って!〕〔何か来るよ!〕

造龍の周囲には8つの穴が開いていた。穴は亜空間にでも繋がっているかのように暗い。
まるで、リボルバーの弾倉のようだとサフランは思った。
リバーが叫ぶ。

「結晶弾だ!」

「レラ!」

〔サフラン〕〔しっかりつかまって!〕〔ついでに緑色も!〕

穴から高速で弾丸が飛来。弾丸といっても大きさはコ・レラの胴ほどもある。
コ・レラは造龍からみて横方向に移動する。翼を広げ旋回。
弾丸が着弾する直前に翼を閉じ最大加速。弾丸の一つを躱す。
次々に発射される弾丸。残り7発。
コ・レラは急激な加減速と身体を捻るような回転機動を駆使し、ジグザグに飛行。弾丸を全て避け切った。

〔GRRRRRR……!〕

造龍はその様を見て、唸り、追走を再開した。

 



 

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