ファイル3:変革/Trans
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エミーナは空を見上げている。透き通るような蒼い空だ。 この距離ならば通信衛星を使わなくても連絡が取れる。 もう、サフランとWISで会話できるはずだが、エミーナはその必要を感じなかった。 「鯖味噌ー! もうすぐ来るみたいだぜ?」 オタがフレイムバレットを構えて隣に立っている。準備はいいか? というわけだ。 そこで、はたと気づいた。心が平穏なのはまさしくカタナを持っているからだ。
「きたきた! うひょー、かっけえええ!」 彼方から飛んでくるクォーツドラゴン。背には弓を持ったサフランが乗っている。リバーは両手で尻尾を持って滑走。 コ・レラは高度を落とした。エミーナたちの上空ギリギリをすり抜けるようにして通り過ぎる。 目の前にリバーが滑り込んでくる。ブーツの刃が地面の草を刈り取った。 「うぷ……、吐きそう……」 青い顔をしている。フォトン知覚をもってしてもクォーツドラゴンの機動に耐えられなかったのだろうか。 しかし、リバーの心配をしている時間的余裕は無い。 造龍も決着の機を悟ったのか、立ち止り、咢を大きく開いた。 「咆哮か!?」 赤虎の警戒は裏切られた。
チャコがウィークバレットを発射。狙いは造龍胸部。 あのレーザーを受ければサフランもコ・レラもひとたまりも無いだろう。
「レラ! あの真っ赤なマーク見える?」 〔どれ?〕〔見えない!〕 コ・レラにAR:強化現実を用いて表示されているウィークバレットのマーカーは視認できない。 「じゃあ、あいつの胸に飛び込んで!」 〔アークスたちが群がってるとこだな!〕〔わかった!〕 両手でカタナを正眼に構えた。精神を集中する。かつてないほどに研ぎ澄まされる。 「カザン……」 造龍の身体が迫る。姉がシュンカシュンランの3撃目で逆袈裟に斬りつけていた。 「ナデシコッ!!」 今の彼女にできる全てを込めた一撃。 〔やったね!〕 コ・レラの歓喜を聞きながら、サフランは呼気を整えゆっくりとカタナを鞘に納める。
なんと声をかけよう。エミーナはそう思った。 迷っているうちに、妹がコ・レラとともに自分の前にやってきた。龍の生み出す風がエミーナを叩いている。 「お姉! お姉! すっごい友達ができたよ!」 サフランは、いつもと同じ陽気な笑みを浮かべていた。 (ボクってばほんとバカだな。変わってないじゃないか。サフランはずっとサフランなんだ) 「……うん。すごい友達だ!」 そうして、姉は惜しまず妹とその友人を讃えたのだった。
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