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ファイル3:変革/Trans









(仮)号はほぼ損傷せず浮遊大陸に不時着していた。

エミーナは空を見上げている。透き通るような蒼い空だ。
先ほどリバーから通信があった。

この距離ならば通信衛星を使わなくても連絡が取れる。
どうやら妹と会ったらしい。それもあの造龍をこちらに誘導中だと聞いた。
しかも、クォーツドラゴンのコ・レラに乗って。

もう、サフランとWISで会話できるはずだが、エミーナはその必要を感じなかった。
デューマンとか歴史介入によるパラドックス以前に、今のエミーナは妹が自分から巣立ちつつあると直感している。
けれど、不思議なことにそれでもいいんじゃないか、と思えているのだ。なぜ、そう思うのだろう?

「鯖味噌ー! もうすぐ来るみたいだぜ?」

オタがフレイムバレットを構えて隣に立っている。準備はいいか? というわけだ。
大丈夫。手にはカタナを持っているから。

そこで、はたと気づいた。心が平穏なのはまさしくカタナを持っているからだ。
こんなところまで自分は脳筋だったのだ。肩幅と揶揄されても仕方ない。


アサルトライフルのスコープを覗いているチャコが叫ぶ。

「きたきた! うひょー、かっけえええ!」

彼方から飛んでくるクォーツドラゴン。背には弓を持ったサフランが乗っている。リバーは両手で尻尾を持って滑走。
その背後100mから造龍が四肢を振り乱し走ってくる。

コ・レラは高度を落とした。エミーナたちの上空ギリギリをすり抜けるようにして通り過ぎる。
一瞬、エミーナはサフランと目が合った。その瞳は自信に満ちていただろうか。

目の前にリバーが滑り込んでくる。ブーツの刃が地面の草を刈り取った。

「うぷ……、吐きそう……」

青い顔をしている。フォトン知覚をもってしてもクォーツドラゴンの機動に耐えられなかったのだろうか。
三半規管をシェイクされずとも急激な視界の変化で酔うことがあるとエミーナは聞いたことがある。

しかし、リバーの心配をしている時間的余裕は無い。
造龍が迫っているのだ。
コ・レラはリバーを届けた後、エミーナたちの遥か後方で上昇しながら反転。造龍と正対する。

造龍も決着の機を悟ったのか、立ち止り、咢を大きく開いた。

「咆哮か!?」

赤虎の警戒は裏切られた。
造龍の口腔内にフォトンが収束。照準はエミーナたちではなく、コ・レラへと向けられている。黒色のレーザーが照射された。


「今だ!」

チャコがウィークバレットを発射。狙いは造龍胸部。
つくねがロッドを振りかぶり、シフタ、デバンド、そしてザンバースを発動。
それを合図に一斉に攻撃が開始される。レーザー照射中の造龍はしばらく身動きが取れない。

あのレーザーを受ければサフランもコ・レラもひとたまりも無いだろう。
しかし、エミーナは心配をしていない。必ず無事だと信じていた。赤虎や枯葉、それからリバーと共に踊りかかる。


一方のサフランはコ・レラにしがみついていた。黒色のレーザーは、コ・レラのバレルロール:螺旋を描く空戦機動によって避けている。
真っ直ぐに照射されるレーザーの3m下をサフランたちは潜りこんでいるのだ。

「レラ! あの真っ赤なマーク見える?」

〔どれ?〕〔見えない!〕

コ・レラにAR:強化現実を用いて表示されているウィークバレットのマーカーは視認できない。
サフランは口頭で指示を出しながら、弓を仕舞いカタナを取り出す。もともとカタナの方が得意なのだ。
今は何よりも短時間で火力を出すべき時だった。チャンスは一瞬である。

「じゃあ、あいつの胸に飛び込んで!」

〔アークスたちが群がってるとこだな!〕〔わかった!〕

両手でカタナを正眼に構えた。精神を集中する。かつてないほどに研ぎ澄まされる。

「カザン……」

造龍の身体が迫る。姉がシュンカシュンランの3撃目で逆袈裟に斬りつけていた。
サフランとコ・レラは減速を一切せずに、そこに飛び込む。

「ナデシコッ!!」

今の彼女にできる全てを込めた一撃。
コ・レラの速度を乗せた縦一文字の斬撃は。
造龍の胴を真っ二つに斬り裂いた。

〔やったね!〕

コ・レラの歓喜を聞きながら、サフランは呼気を整えゆっくりとカタナを鞘に納める。
それを合図に造龍が倒れた。その瞳はもうなにも映していない。


造龍が倒れたことで、(仮)メンバーはぐったりと弛緩した空気に包まれている。
サフランたちは反転して、こちらに戻ってきていた。

なんと声をかけよう。エミーナはそう思った。
よくやったね? 無事でよかった? 心配させるんじゃない?
どれもしっくりこない。

迷っているうちに、妹がコ・レラとともに自分の前にやってきた。龍の生み出す風がエミーナを叩いている。
声を出そうとして、妹に先を越された。

「お姉! お姉! すっごい友達ができたよ!」

サフランは、いつもと同じ陽気な笑みを浮かべていた。
エミーナは呆けたように一人と一匹を見つめる。

(ボクってばほんとバカだな。変わってないじゃないか。サフランはずっとサフランなんだ)

「……うん。すごい友達だ!」

そうして、姉は惜しまず妹とその友人を讃えたのだった。

 



 

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