「うわあぁああぁあぁっっっ!!!」
照明が落とされた暗い部屋の中、ベッドの上で人影が跳ね起きた。
ロングの碧色の髪に、その隙間からのぞく長い耳。
ニューマンの少女だ。
真っ青な顔で荒い息を吐きながら、震える自分の身体を抱きしめる。
パジャマは寝汗でぐっしょりと濡れていて、余計に気持ちが悪かった。
「どうしたのっ?エミーナっ?!」
隣に寝ていた小柄な影があたふたと起き上がる。
「あ、アム…。ボク……」
何かを言いかけ、彼女――エミーナはそのままその小さな影に抱きついた。
勢いあまって二人はそのままベットに倒れ込む。
「うにゃぁっ?!え、えみーなぁっ?
やっぱりこういう事は双方同意の上でぇ…!」
寝起きのせいだろうか。何を言っているのか、おそらく自分でもわかっていないのだろう。
暗い部屋でもわかるくらい顔を赤くして、アムと呼ばれた短めの蒼紫の髪を持つ少女がエミーナに押し倒されてギュッと抱きつかれたまま、ベットの上でジタバタもがいている。
「……ボク…ここにいてもいいんだよね?
…もう、大丈夫なんだよね?」
いつも明るく振舞い、暗さなど微塵も感じさせないエミーナ。その彼女が…泣いている?
彼女の蒼い瞳にうっすら浮かんだ涙を見たアムは、ハッとしたように動きを止めた。
あの事件は、まだ彼女の心を苛んでいるのか――?
アムと同い年のはずのエミーナが、怯えた子猫のように縋り付いてくる。
不謹慎だが、そんな彼女が急に可愛く思えてアムは小さく微笑んだ。
「……決まってるじゃない。
出会ったときから、私達は"家族"なんだから。ね?」
言いながら、先ほどの慌て振りはどこへやら、優しく母親のようにエミーナの頭を撫でてやる。
「…ふぁ…っ……。
ぅん…あり…がと……」
撫でられるエミーナも気持ち良いらしく、うっとりと目を閉じる。
しばらく二人は抱き合ったまま、満ち足りた表情をしていた。
「やれやれ、何の騒ぎかと思ったら……」
「ウィル兄?!」
「あ、え、ウィル?」
突然の声に飛び上がる二人。
男の一言と共に部屋のライトが一気に明るくなった。眩しさで一瞬何も見えなくなる。
「うふふ…。仲がいいのは良い事ですけど。もう少し夜は静かにしないといけませんよ。
アムさん、エミーナさん?」
アム達の兄にあたる切れ長の目を持つ茶髪の青年、ウィルの斜め後ろにもう一人。
淡い藤色の髪を持つ女性がやってきた。
女性型アンドロイドのイー・フリーナだ。クスクス笑いながらにっこり微笑む。
「「へ?あっ?!」」
現状を理解して慌てて離れる二人。
「…エミーナ。君はもう一人じゃない。
俺だって、アムやイフィだっている。大丈夫だよ」
「ウィルぅ…」
「泣かない泣かない。エミーナ・ハーヅウェルって娘は、笑ってる方が似合うんだからね」
「うん…アリガト……」
泣き笑いの表情で、少女はこくりと頷いた。
――悪夢と言われた事件から4年。
――彼女らに残された心の傷は大きい。
――しかしゆっくりとではあるが、その傷は癒されようとしていた……。
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