ボンッ!!
何かが爆発したような音が響き、傍らの機械から部屋いっぱいに黒煙が広がる。
「ゲホッ…なーにやってんだ!だから調整に気ぃ付けろって言ったろうが…」
「でも、んな事言っても先輩〜」
「デモもストもねえっっての!!」
「あ〜、試験片がチリヂリだぁ…」
惑星コーラルの衛星軌道上に位置する都市型コロニー、"エルグランド"。
さらにその中央部にあるウィスコー大学の一室。
何人かの白衣を着た男たちが咳き込みつつ思い思いに窓を開け、煙を外に追いやろうとしている。
どうやら何かの実験中に失敗したようだ。
「はいはい、喧嘩はそこまで。失敗は成功の母とも言うことだし。失敗したとしてもまたやり直せばいいんだから」
「そーっすよね、ハーヅウェル先生」
「だからって君は調子乗りすぎだつーの!」
ハーヅウェルと呼ばれた茶色の髪を持つ男はそう言うと笑いながらノート代わりの携帯端末でその青年の頭を力いっぱいはたいた。
そう、少しの手加減もなく。
その割にパカンと間抜けた音が部屋に響く。
「さわやかな顔して思いっきりハタかないでくださいよぉ…」
痛む頭をさすりつつ、学生らしき青年が文句を言う。
「そうは言うけどこの実験結構危険なんだよ?
今は量が少なかったから良かったようなものの、これが本来の量だったらどうなったと思う?」
「…部屋が吹き飛ぶ…ですか?」
「甘いな。この校舎が吹き飛ぶ」
「げ。」
ニコニコしつつやたら物騒な事を言う。
「だから気をつけてくれよ。命あっての物種だからね」
「は、ハイ…」
「よし。今日はここまでだ。まぁちょこーっとスケジュールが遅れてるが気にしないようにしよう」
他の学生から笑い声が上がる。
この気さくさと、怒るべきところはきっちり怒る厳しさを持つこの年若い教師、ウィル・ハーヅウェルは生徒にとっては尊敬できる師であり、友人でもあるのだろう。彼の両親がパイオニア1でラグオルにシステム監査として向かうという口実で彼にこのハーヅウェル研究室――通称ハーケン――を託してから年を追うごとに参加者が増えている事からもそれが伺える。
「「「お疲れ様でした!」」」
惑星ラグオル――楽園と名づけられたその星は、偶然に見つかった物ではない。
原因不明の恒星トリヴュートTの活動衰退、環境破壊の為に状況の悪化した惑星コーラルを捨て、 新天地を求めるための"パイオニア計画"の賜物である。
恒星の衰退も環境悪化も既に回復不能な所まで来ていると判断したコーラル政府は、今まで推し進めてきた惑星救済計画"リ・プラネット"を断念。
国家の総力を挙げて新天地の探索を行った結果、幸運にも200光年先に大気構成G型の惑星を発見した。
先行偵察衛星(パスファインダー)を送り、特に問題が無いと判断されたその惑星へ向けて4年前、軍関係者と研究者などが選抜され、第1陣が遠距離航行恒星間宇宙船"パイオニア1"に乗り込み、出発。
スケジュールどおり進んでいれば、丁度ラグオルでの生活の要となるセントラルドームが着工された頃だろう。
ウィルの両親も一研究者として乗り込んではいるが、どうやらそれは口実で、本心はラグオルへ永住する腹積もりのようだ。
一般人及び、ハンターズ関係者選抜組が搭乗、2年後に出発する予定の"パイオニア2"がラグオル衛星軌道上に到着するのは"パイオニア1"に遅れて7年後。
その頃にはセントラルドームを中心とした大きな街がラグオル地表に出現しているはずだ。
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