第一夜...「発端」
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翌朝。
ウィルは早速休暇願いを学校にメールで提出、アム達と3人で"エルグランド"最上階に繋がる高速軌道エレベータへと向かった。ハンターズギルドで参加登録を行うためである。
基本的にギルドで仕事を受ける場合、単独、もしくは最大4人のパーティを組んで請け負う事になる。
登録されたチームをギルド支部は状態を常にスキャンし、場合によって帰還不能に陥ったハンターを転送するなどのフォローをする。そういったバックボーンがあるからこそ、ハンターという仕事が成り立つのだ。そうでなければこんな危険な仕事に――運が悪ければそのまま命を落とす羽目になる事もある――人気が出るわけがない。
登録を済ませると、IDカードが手渡される。これにはその人物がギルドにて登録されたハンターである事の証明だけでなく、ギルド支部からハンター達のコンディションを確認する為のセンサーや、そのハンターがどのくらいの実力を持つかを数値的に示した「レベル」が書き込まれている。ちなみにこの数値は、経験によってリアルタイムでカウントされていく。

「さっすがウィル兄だね。私なんかじゃ比べ物にならないね〜。…とほほ」
「そりゃ、こっちの仕事やり始めてから長いからねぇ…」
「お待たせしました。後方支援なら任せてくださいね、ウィルさん」

チーム登録をこれから行おうとする者と登録を済ませた者がごった返す"エルグランド"最上階、ギルド支部ロビー。
カードの見せ合いをしていたウィルとアムの後ろから、久しぶりにフル装備に戻ったイー・フリーナが返ってきた。
普段の"素体"の上に白を基調に紫のアクセントが入った追加外装甲を着込み、ダークレーザー(ライフル系銃器の一種)を掲げ持つ姿は彼女が戦闘用アンドロイド"レイキャシール"である事を今更ながらに強く感じさせる。ちなみに頭部のリボン状のものは、アクティブソナーや高感度マイク、GPS等、様々な機能を兼ね備えたフェイズドアレイレーダになっている。
ウィルは黒を基調として、黄色のワンポイントが入った実用性重視のハンターの服装、アムは青を基調とした呪術結界としても機能する優雅なフォマールの服装に身を包んでいる。

「……張りきってるなぁ、イフィ?」
「えぇ。久しぶりの実戦ですからね。これも久しぶりに持ちましたよ。
 やっぱり手馴れた火器はしっくり来ますねぇ♪」

言いつつ、家から(!)持ってきたダークレーザーを構えて見せるイー・フリーナ。
いつも通りのほえほえっとした口調に何とはなしに危なさを感じるのは何故だろうか。

「そ、そか。思い出した。イフ姉て武器マニアだったんだっけ?」
「何を今更……しかもかなり、のな」

額に大きな汗粒を浮かばせつつ、ウィルとアムは苦笑い。

「ところでウィル兄は何を持ってくの?」
「ん、俺かい?そうだなぁ…ヴァリスタとラストサバイバー(それぞれハンドガン系銃器と大剣の一種)あたりでも持っていこうかとか考えてるけど」
「…そう…。私、身体が小さいでしょ?
 ハンドガンは持て余すし、ウィル兄みたく大剣振りまわすなんてこともできないし……。
 セイバーを使うしかないのかな…嫌だな…」
「どうして?」
「だって…どうしてもクエスト上で邪魔になる生き物って殺す事になっちゃうよね…。
 いくら相手が動物だって、生きてるんだよ?
 機械だって……意志のない機械ならまだしも、アンドロイドさん達とはやりたくないよ。
 もちろんハンドガンとかテクニックとか使っても同じだけど…
 特にセイバーだと…相手を切り伏せる感覚が直接手に伝わって…。
 その……」

肩を小さく震わせ、うつむくアムの頭に軽くぽんぽんと手を添えるウィル。

「優しい娘だな、アムは。それだけ分かってれば上出来だよ。
 怖いのはその感覚が鈍る事だ。それじゃただの殺人鬼と変わらないからね。
 もちろん振りかかる火の粉は払わないといけないけど、必要以上の戦闘を行うのは俺も好きじゃない」
「うん…ありがと」
「ウィルさーん、アムさーん!!早く行きますよぉっ!!」
「ちょっと待ってろって!!買い物がまだだっつーの!!」

すでに意気揚揚と転送ゲートへ向かっているイー・フリーナとそれに向かって怒鳴っているウィルを、アムは苦笑しつつ眺めていた。





 


 
 
第一夜...「発端」
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