第二夜...「発端」
| |




「…それで、シーガルさん達は何故こんな辺鄙なところに?」

すっかり日も暮れた森の中。
ウィルとシーガルが狼に似た動物を狩って用意した肉を焚き火の上で慣れた手つきで炙りながら、アムが質問した。
ちなみに彼女の格好は蒼いフォマールの上着と帽子を脱いだだけの状態だ。汚れのための対処だろう。
流石に兄と一緒に良くキャンプに来ていただけのことはある。
イー・フリーナは薪集めに行っており、今ここにはいない。
時たま遠くで太い木が折れるような鈍い音が響いているが、敢えてアムは気にしないようにしていた。

「俺は鍛錬が好きだからね。こういうところは結構よく来るんだ」
「それだけじゃサボりたがりのソーマがついてくるとは思えないがな?」

笑い混じりにウィルが言う。

「ん、シーガルと俺が一緒にいると不自然かい、ウィル兄?」
「誰もそんなことは言っちゃいないさ。
 お前がシーガルと組んでるときは、何かしら悪巧みをしてるか、もしくは仕事を請け負ってるときだろう?」

その問いに、ソーマは苦笑。
そして普段の軽い表情が真面目な表情に一変した。

「流石にお見通しか。ウィル兄には適わないよな。…その通り、今回俺達二人は仕事でここに来てる」
「ふむ…エミーナ・ウルクスって娘の捜索かい?」
「…聞くは無作法、語るは無礼がハンターズの礼儀って教わんなかったっけ、ウィル兄から?」
「そりゃ名も知らないハンターズと組んだときだろうが。お前等みたいな知り合い同士なら別に問題は無かろう?」

いけしゃぁしゃぁと言い放つウィルに一瞬きょとんとした後、爆笑する弟子二人。
アムは話についていけず、おろおろするばかりだ。

「うはぁ、ウィル兄らしいや!」
「ひ〜苦しい…違いない。
 俺らの方は…同じ娘さんの捜索でもティアナ・サグナスって娘の捜索依頼だ。
 最も、ウィル兄達がどういった件で来てるのか分からないと何とも言えないけどな」
「言い返してくるたぁお前等も一人前になったなぁ?
 俺達の方はさっきも言ったとおり、エミーナ・ウルクスって娘が誘拐されたっていう事件を追ってる」

顔を見合わせるシーガルとソーマ。

「一昨日ぐらいからギルドに上がってたけど出所が怪しいもんだから誰も手を出さないんで、常駐外ハンターにも情報が流されたって、あれだろ?」
「あぁ。どうにも気になることがあってな……」

また、一瞬だけだが表情を暗くしたウィルを見て、アムは不意に背筋に寒気を感じた。
何かとんでもない事象が、自分達の目の前に横たわっている気がしたのだ。

「ふむ。どうやら目指す方向は同じみたいだし、乗りかかった船だ。
 良かったら皆で一緒に行かないか、ウィル兄?」
「おいおい、そりゃ諺を使うところが間違ってるぞソーマ。まぁ、それはともかく…いいのか?」
「いや、情けないんだが実のところ正直俺達2人じゃ心許ないんでね」

普段の軽い乗りに戻って笑って言うソーマ。
どうやら合流した一番の理由はそこのようである。

「ま、こっちも戦力が多いに越したことはないしな。
 OK、一緒に行こう。だからってこっちもサポートはするが、昔みたく突っ込んでも助けてやらんからな」
「サンクス!恩に着るぜ、師匠!」
「その呼び方はいい加減やめろって……」
「ふふ、皆さん楽しそうですね」

その時やっとイー・フリーナが薪を山ほど抱えて帰ってきた。
その量にちょっと唖然とする一同。

「おいおいイフィ、そりゃいくら何でもちぃっとばかし多すぎないか?」
「でもアムさんが多いに越したことはないって…」
「イフ姉〜、確かに私そう言ったけど、それは多すぎるよぉ」

さっきの音の原因はやっぱりこれだったのかと、思わず頭を抱えるアム。
どうも彼女、家の手伝いや戦闘のサポートに関しては完璧だが、外のキャンプなどについては全くと言っていいほど知識が乏しいようである。

「あらあら、大変。
 私自然破壊の助長をしてしまったのでしょうか?」

妙にすっとぼけたイー・フリーナの言葉に、一瞬の間の後、皆笑い転げたのであった。




 
 

第二夜...「発端」
| |