第三夜...「潜入」
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ゴォンゴォンゴォウン…ッ

重苦しい音と共にエレベータが止まる。
地下20F。
これより深い階層へ到達するには他のエレベータカーゴに乗り換えないといけないようだ。
トラックを利用して突破という案も出たが、どうやらここで働いているアンドロイドでないと動かない物らしく、イー・フリーナが操作してみても全く反応がなかった。そもそもトラックを利用すると道が限定されてしまうため結局その案は却下され、こうして徒歩で探索中なわけなのだが。

「ったく、いつの間にこんな物こんな所に造ったんだか……」

シーガルが呆れ顔で言った。
確かに予想より遙かに大規模な建物だった。
カーゴに備え付けられていた端末でイー・フリーナが新たに入手した順路データも、B20F以降はロックがかかっていて開けないと言う。解凍プラグインが通常の物ではないのだそうだ。

「他に金掛けるところは何処にでもあるだろうに。これだからお役所ってのは……」
「少なくとも軍関係やハンターズギルドが直接関わってるわけではないでしょう。無許可で建てられた建物で真っ当なお仕事なんてできません」

データの展開をあきらめ、胸元に展開していた仮想キーボードを終了させながらソーマの言葉を正すイー・フリーナ。
アンドロイドなのだから自分の頭の中で高速検索を掛ければ済むはずなのだが、変なところで人間くさい。
本人に言わせると、「これが正しいハッカーのスタイルなんです」とのこと。そのあたり、ウィル達にはちっとも理解できなかったのだが。

「恐らく、軍関係の急進派が勝手に造った研究施設だろう。無許可で、危険な…ね。
 バックもそこそこの所が付いてるに違いないよ」

こちらも呆れ顔でウィルが言った時だった。

ドガァッ!!

大きな爆発音が聞こえた。
今度は近い。

「こっちです!」

いち早く音源を確認したイー・フリーナが先陣を切って走り出す。
あわてて続く一同。

「とわったた……なんだこれはっ……!?」
「きゃぁっ!」

そこにあったのは、十数体の警備用機体の残骸。
壁や床には無数の斬りつけたような跡があり、とどめに床には大穴が開いていた。どうやらジェネレータに誘爆したらしい。
未だ小さな爆発が続いているが、次第に収束しつつあるようだ。
通路自体が崩壊するほどの大きな穴に、危うく先頭のウィルが落ちそうになったが何とか踏みとどまる。
さすがに落ちれば彼でも命はないだろう。なにしろ3階層、高さで言えば100mほどをぶち抜いていたのだから。

「……むぅ、こりゃ激しいな」
「手際がいいのか悪いのか、判断に迷いますね」

冷静に対応しているようで、力技で押しているようにも見える。戦った痕跡というのは、見る者が見ればある程度の実力や戦闘スタイルが見えてくる。
だが、この痕跡はどっちつかずの所があった。
冷酷な戦士のようであり、未熟な子供のようでもあり――。

「これ、フォトンの刃の傷だけじゃないな。鋭利な金属か何かで付けた傷だぜ。恐らくカタナか…」

丁寧に壁や床の傷を観察していたソーマが告げた。

「カタナだなんて…まだ使ってる人がいるの?」
「あぁ。有名なカタナ使いといえば、豪刀ゾークがいるな。伝説の4本のカタナのうち、3本までを継承した男だ」

ウィルが説明する。

「あと1本は?」
「名前だけならアムちゃんも知ってるだろ?"アギト"ってやつ。
 最も偽物が多く出回りすぎてて、今じゃ実物があったかどうかさえ眉唾物になってるけどね」
「へぇ…」

ソーマの博識ぶりに、びっくりしたような表情を見せるアム。
その背後に――。

『侵入者、発見!直チニ迎撃ニ移ルッ!』






 
 

第三夜...「潜入」
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