第三夜...「潜入」
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『警備部隊101、完全に沈黙』
『被検体イプシロン、区画SrV-783に到達』
「イプシロンの暴走は止められんのかっ?」

たくさんの仮想モニタが乱立するコントロール・センター。
オペレータや軍服姿が多い中で、白衣の男が怒鳴っていた。
神経質そうな、眼鏡を掛けた初老の男である。

「はっ、5ブロック四方まで追いつめましたが、人的被害はかなり大きくなっています。
 10名が死亡、27名が重軽傷です。それと……その……」
「はっきり報告せんかっ!!」
「申し訳ありません!
 更にArS-78B搬入口より侵入者。現在第20階層まで侵入しています。こちらも人的被害こそないものの、被害は少なくありません」
「ぬぅ、タイミングが良すぎるな。イプシロン暴走事故との関係を調べろ。
 被検体ミューの状態は?」
「150階層にて未だ凍結中ですが、脳のγ波に若干の変化があります。
 これです」
「……ふむ、ミューの脳波とイプシロンの行動とが時間的にシンクロしているようにも見えるな。
 …もしや……互いを呼び合い、共鳴しているとでも言うのか……?」

一つのモニタを食い入るように見つめる眼鏡の男。
その中には、碧色の髪をなびかせて紫色の禍々しい鎌を振り回し、ヒューキャストタイプの警備兵を撃退する、手術用の巻頭衣の様な白い服を着た小柄な少女の映像が映っていた。身体の割に力とスピードの乗った一撃で、あっさりと真っ二つになる警備兵。
返り血のように人工血液を浴びても気にもせず、彼女は次の標的に向かって飛びかかっていく。
それは凄惨で、しかし美しい戦女神にも見えた。

「……ふん、ニューマンがヒューマンに刃向かうか。馬鹿なやつだ。
 私はプラントに戻る。引き続きイプシロン、ミューの監視及び侵入者の排除を続けろ。侵入者に関してはなるべく生け捕って私の前に連れてこい」

ディスプレイから急に興味を失ったように、彼はそばの報告員に目を向けた。

「殺さないので?」
「馬鹿ものっ!!これだけ私の研究をかき回してくれたのだ。彼らにも研究につき合ってもらわなければな。クククッ……」
「は、はっ!りょ、了解しましたっっ!」

眼鏡の男の瞳に狂気の光を見、報告員は心底震え上がった。

 



 
 

第三夜...「潜入」
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