第三夜...「潜入」
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「しかし、本当に何処まで潜れば済むんだよ…」
「だあああぁぁぁぁっっっっっっ!!んっとーに頭にくるっっっっっっっ!!
 フォイエ!ラフォイエ!!ギフォイエ!!!、おまけにメギドッ!!!!グランツッッ!!!!!
 もひとつおまけにフォトンブラストッ!!!!!!」

疲れた声で呟くウィルの傍らで、いい加減延々と続く通路に飽きてきたのか、ソ−マが見境なしにテクニックを連発する。
フォトンブラストまで意味もなく発動する程、彼も彼のマグ、ナラカも暇を持てあましているらしい。
主人の意志を汲み取って進化する生体防具、マグ。
どうやら彼のマグの場合、その性格まで汲み取ってしまったようだ。ある意味始末におけない。

「うげぇっ?!流石にメギドはやめとけって!!あぶねーだろがっっ!!
 って?ぐはぁっ?!何故に俺ばかり〜〜っ!!!」

危うく"メギド"の紫色の雲―死の呪詛の固まり―に当たりかけ、すんでの所で避けたと思いきや光の高位テクニック"グランツ"の直撃を受け、更にフォトンブラストまで直撃を受けたシーガルが悲鳴をあげた。
…しかし当たり前のように耐えている辺り…いつものことらしい。

「あ、悪い。手元が滑った…。ほい、レスタ」

流石に苦笑を浮かべ、ソーマが回復テクニックを展開する。

「おいおい。
 イライラする気持ちは分かるが同士討ちはごめんだぞ、俺。
 それにな……」

そういって人差し指で上を指し示すウィル。
釣られるように皆上を向く。

「「「「!!っ」」」」
「そう、ド派手にやりすぎると崩れるって言いたかったんだよっ!!!!」
「きゃぁっ?!」
「わ〜んっ、お約束ぅ〜!!」
「勘弁してよぉっ!!」
「高いんだぞ、この車っ!!?」

人間の頭の大きさぐらいの破片まで落ちてくる中、様々な悲鳴が飛び交う。
それでも彼らは何とか無事に隣の区画まで逃げ出す事に成功した。
振り返って見ると、完全に通路が塞がってしまっている。
帰りがけは他の道を探さねばならないだろう。

「は〜、無駄な体力使っちまった…で、ソーマ。なんなんだよ、さっきの悲鳴は?」
「あ、特に意味はなし。深く考えるとハゲるぜ、シーガル?」
「あーのーなーあー?!今だってお前が原因だろがぁっ!!
 今日という今日は頭きたっ!そこに直れっ!!成敗してくれるッ!!」

額にはっきり交差点マークを浮かべ、シーガルがギガッシュを振り回すが、ソーマはそれをひらりひらりと避けていく。

「……あの二人、放っておいてもいいんですか?」
「放っとけ放っとけ、ここだったら天井が落ちてくることもなさそうだし。
 そうだ、悪いけどさっきの地図データの展開、今頼めるかい?」

ウィルの質問にちょっと考え込むイー・フリーナ。

「うーん、さっきの時点ではちょっと時間がなかったんで検索するまででしたけど。
 時間を少し頂ければ何とかプラグインを自作出来ると思います。どのぐらい待てます?」
「正味30分取れるかどうかだろうね」

シーガル達の喧嘩を横目でちらりと見て、ウィルが頷く。

「わかりました。15分でケリをつけます」
「了解。んじゃ、頼む」
「はいはい」

気軽に答える彼女だが、これは本来簡単にいくことではない。
データの解析、デコード、解凍用プログラム作成ともなると、なかなかの大仕事だ。
それを僅か15分で終わらせると豪語する辺り、さすがはアンドロイド。プログラムなどお手の物らしい。

「う〜〜」
「どうした、アム?」
「あ、ウィル兄……何でもないよ」

ウィルの視線に気付き、アハハ、と苦笑するアム。
しかし、その表情の陰を見逃すウィルでもない。

「何年兄妹やってると思ってる?
 お前さんが俺の違和感を感じ取れるって事は、逆もまたしかりって事だろ?」
「あぅ……ごめん。……その、私ってさ。役に立ってるのかなぁって…思っちゃったから」

遠慮がちに言う妹の言葉に、心底意外そうな表情を見せるウィル。

「十分役に立ってるじゃないか、少なくとも俺はそう思うぞ。
 サポートはしっかりこなしてるし、戦闘だってちゃんと参加できてる。
 初めてのクエストにしちゃ上出来だと思うけどな」
「でも……私…武器ってあんまり得意じゃないし、テクニックだってまだまだソーマさんに及ばない…。
 それに、イフ姉やウィル兄みたくいろいろ手早く出来るわけじゃないし……」
「ばーか。それは仕方がないだろう?
 みんな、初心の頃は誰かに何かしら手伝ってもらうものさ。
 俺もそうだったし、な」
「ウィル兄も?」

びっくりしたようなアムの表情に、ウィルは苦笑した。

「おいおい、俺を化け物みたいに言うなよ〜。
 俺だけじゃない、みんなだって初心者の頃はあったさ。始めっから凄い奴なんていないんだ。
 だからさ、もっと気楽にやってみろよ。
 結局の所この仕事ってのは、いかに経験を積んでるかってのが大事なんだ。
 別に俺みたいにハンターズと仕事を絶対に両立しろとは言わないよ。
 学生なんだからむしろ勉強をメインにするべきだが…実力はゆっくりでも必ず後から付いてくるし、お前なら結構いい線行けると思うけどな?」

ウィルの言葉に、アムは頬を染めてこくりと頷いた。

「何でだろう…?ウィル兄に言われるとそう思えるよ。……うん、頑張ってみる」
「ん、やる気になるのは良いことだ。精進しろよ!」
「うんっ!」


「なーんか怪しいよなぁ、あの二人?」
「俺はそう思わないぞ。仲いいじゃないか、ウィル兄とアムちゃんて」
「いや、そーじゃなくてだな。俺にはアムちゃんがウィル兄に恋してるってように見えるんだが……」
「はぁっ?!んなわけねーじゃねーかっ!兄妹だぞ?!」

喧嘩をいつの間にかやめて、兄妹の様子を伺っていた男二人。
なんだかこっちもこっちでみょーな雰囲気を醸し出している。
どっちの答えが正しいのかは、神のみそ汁……違った、神のみぞ知るという奴だろう。

「……ふぅ……恐らく気のせいではないかと。
 ソーマさん、深読みしすぎです……」

わざわざスルドい突っ込みをありがとう、イー・フリーナ。

「さて、と」

ツッコミ終えた彼女は早速検索を開始。
何か爆発音が聞こえたようだが当然無視する。
該当、1件。
その検索結果内容に僅かに驚き、一瞬動きを止める彼女。
その内容には、こうあった。

【作成:Gran-Teknology Industry Co.】
【種別:特殊アーカイブ(軍用コード:W3689fdfl-457)】
【FileNo:D3698-78445s】
【Filename:Del-sol】

「グラン=テクノス……」

思わずぽつりと呟く。
自分を開発した複合企業体も、確かその名前だったはずだ。
しかし、今はそんな感傷に浸っている場合ではない。
雑念を追い払うかのように首を振り、彼女は解凍プログラムの作成に取りかかった。


 



 
 

第三夜...「潜入」
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