第三夜...「潜入」
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「ふぅ、プログラム作成完了しました、ウィルさん。結果、見ます?」
「ご苦労さん、イフィ。君には毎回苦労掛けてるな、本当に」
「それは言わないお約束ってやつですよ」

クスクス笑うイー・フリーナ。
その傍らでは真っ黒焦げになってぷすぴす煙を上げて、時折足がぴくぴく痙攣していたりする男性二人が倒れていたりするが、ウィルとイー・フリーナは完全にシカト。

「それで、結果は?」
「えぇ、ここは地上1F、地下150階の多層建造物のようです。関係者はアンダータワーと言っているようですが……」
「アンダータワー、ねぇ……せめてもう少しいい名前考えつかなかったのかぁ?」
「安易なネーミングですネ」

二人同時にため息を吐く。

「そ、それにしても地下150階たぁ剛気だな」

何とか復活し、身体中の煤を叩きながらシーガルが言った。
どうもアムがソーマの言っていたことを聞きつけ、恥ずかし紛れに何発かフォイエを放ったらしい。
無意識の内に出力が最大になっていたらしく、ソーマは当然吹き飛び、シーガルは毎度のように巻き込まれ――今に至るというわけだ。
今だぴくぴくしている、「君のためなら死ねるぅっ!」とか断末魔を遺したソーマがちょっと気になる所である。

「おー、生きとったか」
「い、生きとるわい……マグがなかったら俺、今頃あの世行きだぜ……」

たしかに彼のマグを見ると装着者を守る特殊な磁場が展開されていた。無敵状態で何とか乗り切ったらしい。
運悪くソーマのマグは無敵状態になれなかったようで、主人同様黒こげになっている。が、まだ浮いているところを見ると壊れているわけではなさそうだ。

「ごめんなさい、シーガルさん……」
「いや、いいって。こーやって生きてるしな」

これ以上ないくらいにしょぼくれるアムに、苦笑を浮かべつつシーガルが言った。

「せめて回復くらいはさせてください。……レスタッ!」

アムの回復テクニックが、彼女の広げた手のひらの先でフィールドを展開、青白い光の魔法陣を描く。同時にシーガル達の身体に柔らかな光が降り注ぎ、傷がみるみるうちに治っていく。

「助かったぜ、アムちゃん。
 凄いな、格闘もそこそこ出来てテクニックも使えるってのは」
「……いえ。
 私は、ウィル兄に憧れてるだけなのかもしれません」

唐突な話題転換に、シーガルは面食らった。
それに気がつき、アムは苦笑を浮かべる。

「あ、ごめんなさい、唐突で…。
 ウィル兄ってあの性格でしょ。一人じゃなんだかほっぽっておけなくって。
 でも、私なんかより十二分に強くって……すごく、優しくて……」
「ふむ」
「あんなハンターになりたいなって、前から思ってたんです。どんな困難があっても立ち向かえるような……」
「なるほどな。
 さすがにハーヅウェル家の長女、か。強い者に集う者は、自然と志も高くなる、ってね」

ぽんぽん、とアムの頭を撫でつつ、シーガル。

「え?」
「俺も、もしかするとソーマも、ウィル兄のそういうところに心酔したんだろうな。
 悪口言ったり、言われたり。背後から仕掛けて返り討ちにあったり。
 まぁ、いろいろ酷い目にも遭わされてるが、それでもこうやって一緒に行動するのは……」

イー・フリーナとあれこれ作戦を立てているウィルに視線を移す。

「やっぱり、いつでもどんな時でも周りの皆に常に気を配ることができる人情味溢れる人間であり、
 そして俺達が志を高められるだけの強さを、ウィル兄が持ってるからなんだろうな。
 俺から見たって、悔しいけど格好いいって思う時がある。アムちゃんが思うところと同じだよ」
「お前って……ホモだったのか!?」


めごしっ!!!
ずりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ………ぽてっ。


「復活した側から言うに事欠いてそれかいっ!!!!永久に眠っとれ、てめーはっ!!!!!」

せっかく復活した途端に余計なことを抜かしたソーマがシーガルの鉄拳にぶん殴られ、数m程逆エビ反りのままで廊下を滑走した後再び沈黙した。
シーガルとアムの間に妙な沈黙が続く。

「ぅあ……」
「目標は完全に沈黙っと……。あー、オホンッ。ま、奴はともかく。
 少なくとも俺はウィル兄を強さでも、フォローを忘れない面でも尊敬してるんだ。
 ただ、本人に言うとつけ上がるから、俺とアムちゃんだけの秘密にしておいてくれ」
「うふふ……はい、秘密ですね」
「ふふふ、秘密のお話ですか?」

いつの間にかイー・フリーナがアムとシーガルの後ろに立っていた。
にこにこしながら慌てる2人を見やる。
その慌てぶりを楽しんでるあたり、もちろん確信犯である。

「ひぇっ?!な、何でもないよっ!」
「はいはい。そういうことにしておいてあげます。
 ところで、道が検索できましたんでお二人にお知らせしておこうと思いまして」
「解ったの?」
「えぇ。実はですね……」

その傍らで、倒れたソーマの背中をウィルはラストサバイバーでつついてたりする。

「お〜い、生きてるかぁ?」
「……け、怪我人にどーいう仕打ちするんだか……」

青息吐息のソーマに、ウィルは苦笑を返す。

「だぁほ。まじめな話の時におまえが茶々入れるからだろが。
 …しっかし。マグの無敵モードも展開せずに、よく生きてるよなぁ、お前って」
「それは、アムちゃんの愛の炎だか……」

ごげぇいぃんっ!!!

「それ以上おっしゃるなら、このまま天に召さしてあげてもいいんですけど?」
「おいおい……急所に入れてから言うなよ。聞いてないぞ、ソーマ」

イーフリーナの話を聞いていたはずの、アムの渾身の一撃で今度こそ沈黙したソーマを見て、ウィルは額に大汗。

「だってぇ……」
「……ま、気持ちは分かるけどな」

ぷぅと膨れるアムを見て、ウィルは溜息をついた。




 
 

第三夜...「潜入」
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