「見えたぞ!」
突撃開始から既に1時間。
ナビ役の的確な進路指示のおかげで一行は予想以上の時間でBF100Fまで辿り着いていた。
イーフリーナが鍵解除用テンキーをたたくが……。
「?!、コードが変わってます!すぐに解除を……」
「いや、今からハッキングするんじゃ時間がかかりすぎる。こーいう時はな……こうするんだ!」
ダダダダダダッ!!
懐からマシンガンを取り出し、キーロック部分に発砲するウィル。
粉々に砕けたロック部を蹴り飛ばし、扉をこじ開ける。
「急げ!」
「乱暴なんだからなぁ、ウィル兄はぁ……」
「早くしないと、建物中にガードロボットが溢れちまう!」
そして、内部ドアを開くと―――。
「?!」
一言で言えば、紅い地獄だった。
めちゃくちゃに破壊されたモニタ。
赤い液体が引き伸ばされたように付着したコンソール。
そして―――。
「ひぃっ……?!」
アムが引きつった悲鳴を上げ、そのままその場にくず折れるように失神した。
無理もない。
こうも"人間だったもの"が滅茶苦茶にされていては……。
「こりゃ、ひでぇな……」
濃い血の臭いに思わず顔をしかめるシーガル。
「いったい何のためにこんな事を……?」
吐き気を堪えるように口を片手で塞ぎつつウィルが呟いたときだった。
ぐるる……
暗がりから何者かが、獣の唸り声のような声を上げた。
目標をこちらに変更したのは明らかだ。
「そうか、こいつが原因ってわけか……。イフィ、アムを頼む!シーガル、ソーマ!一暴れするぞ!!」
「おぉっしゃ!やっと骨のあるヤツが出てきたな!!」
「くくく、アムちゃんにこの仕打ち……火傷じゃすまさねえ!!」
3人の殺気に反応したか、ソレは雄叫びを上げながらこちらへ向かって突進してきた!
「「どありゃぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」」
気合一閃、ほぼ同じタイミングで左右からギガッシュとラストサバイバーを振り絞るハンター二人。
が、しかしあっさりと古のサーベルタイガーのような大きく突き出た犬歯で弾き返されてしまう。
「何ぃ?牙で受け止めただぁ?!」
「それなら力で押し切るまでだっ!!こっの、やらぁ!!!」
力任せに無理やりサバイバーを振り抜くウィル。
何時までたっても慣れない、肉を切り裂く鈍い感覚が腕に伝わる。
「手ごたえあったが…どうだっ?!」
「なんか…あいつ俄然ヤル気満々って感じだぜ、ウィル兄…」
緑色の体液を流し、頭を半分引き裂かれてもソレ―4つ足の獣のようなモノ―は怯みもせず、不気味な唸り声を上げた。
流石のシーガルも辟易としているようだ。
「燃えちまえよっ!!フォイエ!ギフォイエ!!ラフォイエ!!!」
敵が立ち止まったのをこれ幸いと、次々とテクニックを発動させるソーマとアム。
が、しかし。
「ちぃっ、てんで効かねぇや!生物なのに火を怖がらないとなると……」
「こいつも、もしや……」
『よく気づいたねぇ、ハンター諸君。いや、Dr.ハーヅウェル?』
「「「なっ?!」」」
慌てて周囲を見渡す一同。
見ると一つだけ無事なモニターに、白衣を身に着けた初老の男性が写っている。
「……お前は?!」
『覚えていてくれたようで嬉しいよ。
確か私の研究を真っ先に否定してくれたのは君の父上だったかな?クッククク…』
低く喉を鳴らす初老の男。
ウィルも思い出していた。
学生時代、大学のオスト研究室で生化学・生物研究の権威として一時期名を馳せたが、あまりに危険すぎるとして異端とされ、闇に葬り去られた研究者と論文があったことを。
そしてその研究者の名は……。
「オプト・グラッハル……?!何であんたがここに…?」
『クックック、そうだ、私だよ。
どうだい、私の研究成果は?類まれなる強靭な肉体、闘争心。大した物だろう?
これならば、コーラルの劣悪な環境でも生きてゆける!』
興奮した声で得意そうに話す白衣の初老の男―オプトの表情に、一行は寒気を覚えた。
天才というものは、こういう物なのだろうか?
「やっぱりこれはてめぇの仕業か?!」
『おやおや、お気に召さなかったかね?』
「当たり前だ!それに、ここの職員はどうした!!」
ウィルの問いに、オプトは急に興味を削がれたような顔をした。
『……あぁ、そいつらか。
ふん……あまりにも使えないからな、α113のデータ取りに使わせてもらった』
「なっ?!」
『使えないものは最も効率のよい方法で廃棄する……効率重視の研究所ならばどこでもやっていることだと思うが?』
その中で、すくりと立ち上がった影ひとつ。
「……あなたのやっている事は、命を弄んでるだけよ。
それだけで…それだけの理由の為にどれくらい犠牲が出たっていうの?言ってみなさいよ。
……それともあなた、神様にでもなったつもり!?」
心配そうなイー・フリーナの傍ら。
今までにないくらいの激しい怒りを瞳に湛え、モニタを見つめる視線を強くしたアムが言い放つ。
口調こそ穏やかなものの、その気迫はソーマはおろかシーガルさえ一瞬気圧されたぐらいだった。
彼女の普段の穏やかさを知る者からすれば想像すらできないだろう。
それほどまでに彼女の怒りは凄まじい物だった。
『……神か。そうだな、私は神だ。
これは我々がこの惑星で生き残るための……』
「ごたくなんて聞きたくないわ。そんな惨い事をしてまで、私は生き残りたいなんて思わない。
ましてや……命を弄んできたあなたなんて、生き残る資格なんかないっっ!!!!!
ラゾンデッ!!!」
ヴァシャァァァアアンッッ!!
アムの掌からテクニックの激しい放電が発せられる。
あっという間に煙を噴き、吹き飛ぶモニタ。
「決まりだな、オプトのおっさん。せいぜいそこで首を洗って待ってやがれ。
てめぇの計画、親父達がそうしたように俺達がぶっ潰してやる!!」
拳を握り締め、ウィルが己に、アムに言い聞かせるかのように叫ぶ。
『ほざけ若造どもが。
ふん、研究に協力してもらおうとも思っていたのに残念だ。気が変わった、α113のデータ取りに参加してもらうことにしよう……。
せいぜい、良いデータを遺してくれたまえ……クハハハハハ…』
オプトの哄笑を最後に、部屋のスピーカは沈黙した。
「ち、胸クソ悪ぃな、あのジジイ」
薄い闇と、紅い色彩とが支配している部屋の前方を見据えたまま、吐き捨てるかのようにソーマ。
「……初めて意見が合いましたね、ソーマさん」
小さく微笑んだアムが前のソーマに声を掛ける。
「あぁ。
だけど俺としては、もう少し潤いある会話で意見が合って欲しかったよ。くるぞ!」
ぐるぉおおおぉぁぁぁああああぁぁぁっっっっっ!!!
「前方1時の方向、超高速で接近!!」
「「おおっしゃぁぁ!!」」
イー・フリーナが言うと同時にヤスミを発砲、ウィルとシーガルも前へと飛び出していく。
「さぁ、派手に行くぜェッ、アムちゃん!」
「はい、ソーマさん!」
「シフタ、デバンド!ラフォイエッ!!!」
「ジェルンッ、ザルアッ!!…ラバータッ!!」
ソーマとアムのフォースコンビはテクニックで援護を続ける。
ごあぁぁっ!!
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