「ふん、やはり使えん奴らだったわ…」
「ふふふ、博士も分かっていたことではありませんの?
それはそうとこの後始末、どうされるおつもりですか?」
長いながい闇に沈んだ階段。
人影が二人、その中を奥へ奥へと進んでいく。
一方は男、もう一方は女のようだ。
「ふん、施設自体が老朽化しておったからな。
上の命令で、場所が暴かれた時点でここを放棄しろと指示が出ておる。
まったく、こちらが今の環境にするまでにどれほど時間を掛けたと…」
向かっている先は、地下150Fの更に下。
この施設の最下層にある"搬出路"と呼ばれる脱出用通路だった。
「しかし…イプシロンはいまだ回収できておりません」
「アレが最悪奪われたとしても、ミューと研究データはこちらの手の中にある。研究は続けられるさ。
それに、切り札も用意している」
「…切り札?」
「そう、イプシロンの存在を表に出さないための、切り札がな」
そう言って男がポケットから小さな発信機のようなものを取り出す。
「…これは?」
「例のモードを強制発動させるスイッチさ。普通のヒューマンやニューマンには聞こえない音。
それがトリガーになる。効果は見てのお楽しみだ。クククク…」
☆
「…あ、お兄さん……?」
「お、目が覚めたかエミーナ?」
ウィルの背中で小さく身じろぎしたエミーナが、呟く。
「ティアナが…危ない……」
「ん?」
「ティアナって…シーガルさん達が探してた娘じゃないんですか!?」
アムがソーマの治療の手を休めてシーガルに振り向いた。
「おお、こんな所でヒントに出会えるとはラッキーだな」
「悠長なこと言ってる場合かっての。
もし本当なら奴ら、逃げる算段でもしてるのかもな…どちらにしろ急いだほうがいい。
でも、何で分かるんだ?」
「ティアナは…ボクの妹なんだ。…あの子…ずっと寂しそうにしてた…。
お願い……助けてあげて」
「わかった。ありがとな、エミーナ」
ウィルが暢気な物言いのシーガルに突っ込みを入れながら、エミーナの頭を撫でる。
くすぐったそうな、それでいて嬉しそうなはにかんだ笑みを浮かべるエミーナ。
「地図上ではもう少し降りたところに例のプラントがあるらしい。
もう一踏ん張りだ。みんな、行くぞっ!」
「「「お〜っ!」」」
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